江川晴

救急外来/集英社文庫
 小説。救急センターで働く看護婦の奮闘と、そこを訪れる人々の交流を描く。実話に取材したと思われるエピソードも多い。生き死にに近い場所で働く人は、日常いたるところに緊張があって、生半可な覚悟ではやっていられない職業。
医療少年院物語/ちくま文庫
 医療少年院につとめる看護婦は、通常「法務技官」となる。しかしこの話の主人公である夏川凛子看護婦は、中途転勤だったこともあり、「法務教官」として着任する。収監された少年や少女にどう接していけば良いのか悩む凛子。次々と起こる事件に追われ、また少年達を取り巻く環境に触れた彼女が、最後にたどり着いた境地とは。現場に取材した小説だが、医療少年院について学ぶためのテキストとして読むならば弱い。あくまでヒューマンドラマとして読むべし。(2002.03.17)



榎木洋子

STEP OUT/集英社コバルト文庫
 ものすごーく複雑な心境で読み終えた。何故というに、かつて某鎧アニメのパロディとしてご本人が同人誌で出された「STEP OUT」がものすごーく好きだったもので…(内容はほぼ一緒でした)。宇宙を目指す少年たちの話で、素敵だと思う! でも読んでてキャラクターがパロディのそれと重なってつらかったの〜。先入観の無い方にはおすすめかも。(96.04.04)
月の人魚姫/角川ビーンズ文庫
 人類が海洋民族と陸の民族に別れている惑星で、陸の王子が人魚に恋をする。おぼろげに対立の空気の残る陸と海で、王家同士の婚姻は望ましいものと思われた。しかし人魚は20歳まで性的に未分化。求婚された人魚の王の末子・イルは、竜と魔法使いのいる海から宇宙へ冒険に旅立つことを夢みて、男になることを望んでいた。陸の王子はあきらめず、海の王家を訪問するが…。
 文化先進国に囲まれた後進惑星から、それぞれの方法で宇宙を見ている王子と王女(と言ったらイルに悪いが)がどことなくほほえましい。王子の側の描写に少し感情移入しづらいのが難といえようか。(01.10.04)
海賊と人魚姫/角川ビーンズ文庫
 海の王の末子イルと陸の王子エアリオルは、ともに宇宙ステーションで外交と自己研鑽(?)に励む日々を送っていた。多少の波風はあれどまずは平穏な日常だったが、エアリオルに恋するお嬢様が現れ、時を同じくして宇宙海賊の横行も激しくなる。ある日一人で町へ出たイルも巻き込んで捕り物がはじまる。
 いい感じに肩の力の抜けたお話。前作よりエアリオルのかわいそう度がアップしていて、からかい半分で読んでいました。イルが素直で良い子ですね。このまま男の子への道を突っ走った末にお姫様になってくれたら面白そう。エアリオルは苦労しそうだけど。(2002.11.15)
ダークローズ・プリンセス 黒の騎士/角川ビーンズ文庫
 イギリスの旧家の娘・真夜は、幼時に祖父と父と双子の姉を自宅で、続けて母を事故で亡くし、呪われていると噂されながら成長した。15歳になって叔父のイーサンをも亡くし、自らへの絶望の中で、形見の短剣を手首に当てる。命を絶つべく取った行動は、しかし古い契約を呼び起こした。最後の肉親の住む日本でも、その契約は継続され…。
 黒髪美少女と黒衣の長身美形騎士と言う取り合わせは、確実に私のツボの一つです。直撃でした。ほほほほ。中盤から後半にかけて主役にまつわる謎が一気に解け、駆け足の印象でもったいなかったのですが、今後の主従関係に期待します。



ミヒャエル・エンデ

鏡の中の鏡/岩波書店
 シュールレアリズムの絵画を物語にしたらこうもあろうかという、合わせ鏡の世界を覗き込むようなショートストーリーの連なり。わずかに相互作用しつつも独立した世界を旅しながら、読者もしばし不条理な夢の中を遊ぶ。「わからないならわかるまで読むように」とかつて作者が語ったため、折に触れて読み返しているがやはりわからない。