エラリー・クイーン

最後の一撃/ハヤカワ文庫
 事件がエラリーの心に留められたのは1930年のクリスマス。しかしその発端は1905年、解決はエラリー50歳の坂を越す1957年、実に半世紀を経て謎が解かれる難事件。時代を超えてもエラリーはエラリー。
第八の日/ハヤカワ文庫
 長旅の帰路に砂漠で迷い、文明と隔絶した宗教的な村にたどり着くエラリー。犯罪と無縁の素朴な共同体で殺人事件が発生する。
シャム双生児の秘密/創元推理文庫
 山火事に取り巻かれ、ほうほうの体でクイーン親子がたどり着いた山奥の館。そこは著名な外科医の家であり、どこか奇妙な人々が集まっていた。迫りくる火の前に、何人も脱出不可能となったこの館で殺人事件が起こる。被害者は真っ二つに破れたトランプを手ににぎりしめていた…。トランプをめぐり、推理のどんでん返しが繰り返される。
生者と死者と/創元推理文庫
 靴メーカーのオーナー宅で起こった決闘事件。強権を持つ母親の元で諍いあう子供たち、その異様な家族の中にエラリーが入りこんで行く。
エラリー・クイーンの事件簿1/創元推理文庫
 中編二つを収めた推理小説。映画の原作として書かれたものなので、クイーンの話として数えられないむきもあるとか。どちらの話もニッキー・ポーター嬢がご活躍である。



アーシュラ・ル・グイン

闇の左手/ハヤカワ文庫
 雪と氷に閉ざされた惑星ゲセン。外交関係を樹立するべく訪れた宇宙連合の使節ゲンリーは、この星の特異な人類と社会に翻弄される。そこは男女の垣の消えた両性社会であり、特有の心理と文明が培われていた。



楠本ひろみ

エメラルド・フォレスト/角川ビーンズ文庫
 現代日本の高校生内家摩耶が、突然8世紀古代マヤ文明世界に飛ばされる。当時のマヤ文明では、太陽神に人間も含めた生贄を捧げることが大事な祭祀として行われていた。そこでヤシャウチェ国の聖巫女として祭り上げられた摩耶は、自分を取り巻く世界に激しく抵抗しながらも、やがて国の重責を担うようになっていく。
 表紙のタイキと摩耶嬢のイラストに釣られて買いました。マヤ文明には興味があるので、そこらへんも楽しみに読んだのですが。ページが足りてません。読みやすい冷静な筆致で、状況説明も適切に入っているのですが、どうもダイジェスト版とか総集編を読んでいるような印象をぬぐえませんでした。前半で文庫1冊、後半で3冊いけるくらいの設定だと思います。もったいない。摩耶を巡る男性陣、いい男ぞろいでした。(2002.04.02)



アーサー・C・クラーク

天の向こう側/ハヤカワ文庫
 SF短編集。宇宙の開発に携わる科学者たち、彼らの関わる人々の話がメイン。随所にさりげないユーモアがちりばめられている。
宇宙島へ行く少年/ハヤカワ文庫
 SF小説。クイズ番組で優勝し、賞品に宇宙島(宇宙ステーション)への旅を望んだ少年の体験記。科学的に正確な描写が満載で、ジュヴナイルとして楽しめる。



倉世春

カンタン王国の大冒険 鏡のお城のミミ/集英社コバルト文庫
 田舎の村で、祖父と弟フィディルと平和に暮らしていたミミ。しかしフィディルはカンタン王国国王の隠し子であり、失踪した第一王子の代わりに隣国の王女と結婚させられるため、城へと連れ去られる。ミミは弟を取り返すために城へと乗り込むが、王位をめぐる陰謀に巻き込まれてしまう。
 かわいらしいイラストと純粋な主人公ながら、陰謀はかなりどろどろ。途中現れる謎の人物の正体が意外で、楽しくだまされることができました。フィディル君の将来有望さ加減がすばらしいです。(2003.12.29)
鏡のお城のミミ 山賊たちにご用心!/集英社コバルト文庫
 アメデ村への道中、エリックとはぐれて山に迷い込んでしまったミミ。山賊の少女クーに捕えられ、そこで意外な人物と再開する。ミミを追って山に入ったエリックは、クーと対立する山賊の少年ギー・ギーと出会う。山賊たちの作る共同体の村には見知った顔がいて…。
 ジャン=バティスト初登場。いつの世にもマッドサイエンティストはいるものね…(しみじみ)。このシリーズがカンタン王国内部のお家騒動ですまないことが、この巻で一層明らかになります。たかが山賊、されど山賊。彼らの処遇と後々の道のつけ方に、エリックとバティストの政治家としての腕が仄見えたり。(2003.12.30)
鏡のお城のミミ 幸せの村へようこそ/集英社コバルト文庫
 (Yahoo! ブックスからそのまま転載)エリックと一緒にアメデ村に帰ってきたミミ。大歓迎をうけるが、エリックはミミを心配する村人から警戒されてしまう。おまけに幼なじみのポールの頼みで幼い令嬢ミルレーユの世話係として領主夫人の館にあがることになった。いたずら好きなミルレーユに振り回されるミミだったが、夜中の館に侵入者が!?心ならずも騒動にまきこまれたミミは、エリックの出生にまつわる秘密を知ることに…。
 前巻から思っていたことですが、エリックってけなげだなあ…(しみじみ)。村に溶け込むべく努力する彼に入る横槍の数々が面白い。(2004.1.3)
鏡のお城のミミ さまよう恋のメヌエット/集英社コバルト文庫
 (Yahoo! ブックスからそのまま転載)カンタン王国の有力貴族、カルネー公爵の城に招かれたエリックとミミ。息子ジャン=バティストからの手紙を勘違いしたカルネー公はミミを息子の婚約者あつかいにし、ミミは花嫁修業をするはめに!?一方公爵の養女ナタリーには暗い秘密が…。とまどうエリックと引き離されたミミのもとに反乱軍が迫る。エリックの想いは今度こそミミに届くのか。お転婆娘ミミのロマンチックコメディ。
 歴史ものを読むとき家系図は必需品ですが、今回大幅書き足しが必要となりました。カルネー公爵夫妻、どっちも大物です。エリックどころかバティスト、国王も未熟な若造扱いですね。決して自分を矢面に立たせることなく状況を操るナタリー、図太くて大物です。次回登場に期待大。(2004.1.4)
鏡のお城のミミ 姫将軍と黄金の王子/集英社コバルト文庫
 フィディルの落ち着き先であるマルグリットをたずねたミミとエリック。着くなり二人を迎えたのは、フィディルの婚約者、姫将軍ベアトリスの失踪の知らせだった。
 フィディルとベアトリスの関係はある種理想ですね。ほんとにフィディルの成長ぶりが際立っていてすばらしいです。大きな声で言ってしまいますが、エリックの選択は彼の思惑ではなく、候補者の王の資質として正解だったと思います(どきっぱり)。確実に足元を固めて愛情を育むフィディルとベアトリスの横で、あさっての方向へ関係が進展してしまったエリックとミミ。がんばれとしか言い様がない。(2004.3.30)
鏡のお城のミミ やさしい花嫁のすすめ/集英社コバルト文庫
 王妃暗殺の嫌疑をかけられたバティストを救うため、カンタン王国の王城へと向かうミミとエリック。怪しまれないためにと結婚話をでっちあげ、ミミはエリックの花嫁として国王に会うことになるのだが…。
 エリックがどんどんミミに勝てなくなっていて、哀れながらも面白い…。彼は立場上色々と苦悩していますが、かなり鈍い人だと思います。相手のためと心底思っているのに、相手の望まない選択ばかりしてしまうあたり、「蟻地獄」というものを思い起こさせる…。加えて今回オーバードライブしました国王陛下。それは無茶だろう、と突っ込みをいれさせていただきました。分別はどこらへんに落っことされましたか。ミミ嬢争奪戦も複雑怪奇な様相を呈してきた、と思いきや、ラストででっかいどんでん返しが。だからエリック、どうしてそっちの方向に行くかね。色恋沙汰より先に、自分自身についてもっときっちり考えた方が良いと思う。フィディルの成長ぶりと引き比べて情けないぞ…。



アガサ・クリスティ

牧師館の殺人/
 ミス・マープルもの。小さな田舎町の牧師館で殺人事件が起こる。数分の差ながら犯行時刻の特定が難航する中、被害者の妻の恋人、さらには被害者の妻が自首してくる。町の老嬢ミス・マープルの人物感が鋭いながらも妙に笑える。
白昼の悪魔/ハヤカワ文庫
 多くの避暑客でにぎわうホテル。ポアロも滞在するその島で、元女優が扼殺死体として発見される。
死が最後にやってくる/ハヤカワ文庫
 4000年前のエジプトを舞台にした推理小説。
ホロー荘の殺人/ハヤカワ文庫
 ポアロもの。推理を気にせず普通の小説として読んだ方が面白い。
鳩の中の猫/ハヤカワ文庫
 中東の王家の遺産をめぐる殺人事件。
杉の柩/ハヤカワ文庫
 恋敵を殺したとして逮捕された女性を救うようポアロが依頼される。これもやっぱり、推理よりも人物像の方がおもしろかったり…。
マギンティ夫人は死んだ/ハヤカワ文庫
 ポアロが平凡(?)な殺人事件の影にかくれた真相を探る。
ゼロ時間へ/ハヤカワ文庫
 犯罪が起こる瞬間に向かって話が進んでいく異色作。
死への旅/ハヤカワ文庫
 推理小説(というか、スパイ小説)。冷戦開始時代、ある科学者が行方不明になる。その秘密を知っていたらしい妻に代わって科学者を探しに出る女性の冒険もの。
死人の鏡/ハヤカワ文庫
 推理小説。ある旧家の当主が、ポアロに依頼の手紙を出した後死亡する。密室でのピストル死は自殺か、それとも他殺か。ほか2編を収録する短編集。
第三の女/ハヤカワ文庫
 ある日「人を殺したかもしれない」という若い女性がポアロのもとを訪れる。彼女をめぐる複雑な家族環境。殺されたのはいったい誰なのか。意外などんでん返しの長編小説。
複数の時計/ハヤカワ文庫
 推理小説。盲目の女性の家で発生した殺人事件。居合わせた情報機関の男が探偵役をつとめ、ポアロは助言役に徹している。クリスティの推理小説論がかたられている作品。
フランクフルトへの乗客/ハヤカワ文庫
 辛辣で奇抜な性格の外交官が、飛行機で乗り合わせた女性客から、「パスポートを盗まれたことにして使わせてほしい」という奇妙な依頼をされる。命をねらわれているという口上に好奇心を抱き、外交官は面白がって依頼を受けるが、やがて全世界規模の騒動に巻き込まれていく。主役より主役の大伯母のほうが印象に残った。クリスティはかわいいお年寄りを書かせると一流だと思う。
忘られぬ死/ハヤカワ文庫
 ある夜、美しい女性がレストランで死亡。自殺と思われた事件は、1年後、その夫のもとに舞い込んだ手紙から殺人の様相を帯びて行く。映画館が混んでいたために「タイタニック」を諦めた日に読んだので、探偵役の青年が私の頭の中でディカプリオの顔になっていた。
青列車の秘密/ハヤカワ文庫
 青列車すなわちブルートレイン。離婚を間近にした婦人が、その車内で何者かに殺害される。二転三転する容疑者を、たまたま青列車に同乗していたポアロがするどく見抜く。推理も面白いが、侯爵だの大富豪だの怪盗だのが跋扈する中で、どこかリアルな人間模様が一段とさえている。
魔術の殺人/ハヤカワ文庫
 推理小説。ミス・マープルもの。マープルが友人から、妹の嫁ぎ先に行ってほしいと頼まれる。理由は「とても奇妙な感じがするから」…。そこは少年の更正施設。人間たちの思考が錯綜する中で殺人事件が発生。ねらわれているのは誰なのか?
もの言えぬ証人/ハヤカワ文庫
 推理小説。ポアロもの。ポアロのもとに、とある老嬢から、2ヶ月前の日付の手紙が届く。手紙の内容より日付に興味を持ったポアロとヘイスティングスが調査に向かうと、そこでは案の定女性が一人亡くなっていた。それは自然死か否か? ポアロのはったりが笑える。
動く指/ハヤカワ文庫
 推理小説。ミス・マープルものだが探偵役は別の人である。戦傷を癒すため、田舎に療養に向かった元軍人。静かでのどかなばかりだと思われたその土地で、やがて中傷の手紙が飛び交い始める。
運命の裏木戸/ハヤカワ文庫
 推理小説。トミー&タペンスもの。70代の老夫婦(!)となった彼らは、老後を静かに過ごすために田舎に移り住んだ。が、残された本から奇妙な暗号を発見。彼らの血はまたしても騒ぎ出し、かつてその家で何が起こったかを調べ始める。
愛国殺人/ハヤカワ文庫
 推理小説。ポアロもの。この大探偵ですらただの人となってしまう場所―――それは歯医者の診察台の上。彼が半年に一度の検診に出かけたその後で歯科医が死を遂げる。それは自殺と思われたが、他の患者たちの動向から事件は意外な方向へ転がっていく。
五匹の子豚/ハヤカワ文庫
 推理小説。ポアロもの。結婚を控えた若い娘が、16年も前の事件について再調査を依頼してきた。彼女の母親が父を殺害したとされていたが、娘に残された遺言状では無実を訴えていたと言う。関係者たちの手記から、ポアロが過去の事実を暴き出す。
葬儀を終えて/ハヤカワ文庫
 推理小説。病死した大富豪の葬儀の席で、「彼が殺された」と無邪気に発言した末妹。その言葉をめぐって殺人事件が発生し、ポアロが解決に乗り出す。
死の猟犬/ハヤカワ文庫
 ミステリー短編集。珍しく、霊や超能力といったものを主軸にしたものが多い。
ポケットにライ麦を/ハヤカワ文庫
 推理小説。ミス・マープルもの。ポケットにライ麦をつめて毒殺された男。その後続いて起こった殺人の被害者と縁があったミス・マープルが、捜査に協力を申し出る。
スリーピング・マーダー/ハヤカワ文庫
 推理小説。ミス・マープルもの。久しぶりにイギリスに帰った新婚早々の女性が新居を購入。その家にまつわる彼女の記憶を発端に、ミス・マープルの推理がさえる。
茶色い服の男/ハヤカワ文庫
 サスペンス系。主人公の性格が破天荒で楽しい。
マン島の黄金/ハヤカワ文庫
 新聞や雑誌に掲載されながら埋もれてしまった作品群を発掘した短篇集。表題作は観光促進のために企画された宝捜しの懸賞小説。おなじみのポアロやクィン氏の謎解き、心理サスペンスなど、幅広いジャンルが楽しめる一冊。
白鳥の歌/創元推理文庫
 シリーズものではない短編集。主役に若い人が多い。推理に絡めた冒険譚だったり、人生や恋愛の岐路に立つ人の奮戦だったりして、各話様変わりして飽きない。小技が光るひねりのある筋立てはさすが。(2002.11.14)
ハーゼルムアの殺人/角川文庫
 吹雪の夜、雪に埋もれるシタフォード山荘で不思議な出来事があった。来客たちを集めてたまたま行われたこっくりさまで、山荘の主である大佐が殺されたと告げられたのだ。それは時をおかず事実として人々に知らされる。ほどなく容疑者と思しき若者がつかまるが…。
 容疑者の婚約者の女性エミリーが探偵役。話が実際の殺人現場ではなく、シタフォード近辺で展開されるのですが、登場人物がそろいもそろって「他人」に一家言ある人ばかりで、推理よりその人物評を読んでいるほうが面白かった。(2004.7.10)