こづみ那巳

ジェイダイドの封印/角川ビーンズ文庫
 木々の根方に扉のついた不思議な森を境に、9つの世界が接しているという国の物語。その一つ、「法」をつかさどる国・窟古の王子ジウの花嫁として、魔法の国・彩華の姫魔女莉花(リハナ)が召還される。彼女の目的は、彩華から逃亡した魔女をとらえることにあった。さらに逃亡した魔女を追って、ジウと莉花は世界の境、「六千扉の森」の扉をくぐることになる。
 それぞれの国が特有の役割を持っていることや、森の扉によって世界が接しているという設定が、どことなく童話めいていて面白い。人物関係が少々唐突だったり、ジウの行動が「法」をつかさどるものとしてはいささか無責任だったりするように見えるのが難点。



駒崎優

ダルリアッド 駆け抜ける蒼き宿命/角川ビーンズ文庫
 注意:ボーイズラブが苦手な方にはお勧めしません。
 神の存在が人々に近しい時代。とある部族が征服された戦場に降り立った鬪神ルーグは、息絶えかけた一人の戦士を拾う。彼を愛し、不老不死の運命を与えるルーグ。しかし戦士は死を望み、それが決してかなわぬという絶望の末、一つの望みをルーグに告げる。
 あらすじからしてホモですが ^_^;) 歴史の好きな方の文体だなと読んでいて思いました。本名を明かさない「彼」の望みのために一生懸命なルーグ、ならびにそれに翻弄される地上の皆様がけなげ。続編を意識した終わり方でしたが、話としてはまとまっているので、思いきって短篇としてここですっぱり切ってしまうのも手だったような気がする。先のことを言えば、「彼」よりも、ルーグが報われるかどうかが気になるなあ(報われたら報われたで怖いもんがあるけど)。(2002.06.14)
歓楽の都 手折られた青い百合/角川ビーンズ文庫
 ボーイズラブ注意報(軽度)。
 19世紀ロンドン(ただし似非)の「歓楽の都」、全区画が遊郭である自治地区レーン。あらゆる歓楽と共に情報を操る都市で最高級の「宝石」たる美青年ショウは、新しく赴任して来た医師レイナルフと親しくなる。そんな中、青い百合の紋章の箱に入れられた妖しげな媚薬による死者が相次ぐ。
 印象として、ミステリーはショウとレイが親しくなるための布石のひとつ。推理して解くと言うよりは、足と頭とコネを駆使して調査した結果から事実を導き出すという、まっとうな警察的な筋立てです。主人公二人の関係は友愛・情愛といった感じで、まったりほのぼのした空気があるので好きです。(2004.5.18)
歓楽の都 譚詩曲の流れ行く/角川ビーンズ文庫
 ボーイズラブ注意報(軽度)。
 歓楽の都シリーズ第2弾。大学生ダドリーは、不倫の果ての殺人計画と思われる密談を聞いてしまい、友人と共にレーンに逃げ込んだ。足をくじいたところをショウに救われたダドリーだったが、はぐれた友人はレーンの内部で何者かに射殺されてしまう。武器の持込が完全に禁止の都市での殺人を重く見て、レーンの管理局が捜査に乗り出す。ダドリーは安全が確認されるまで、ショウの元に居候することになったのだが…。
 一晩12ギニーとはすごい…。その調子で稼いでいれば、楽勝でレーンから出られるんでは。今回ショウとレイのコンビは管理局のサポートの役回り。まじめで友人思いのダドリーが、ショウとレイの二人にあてられつつ、だんだんショウに惹かれていく様子がほほえましかった(ある意味哀れとも言うかも)。(2004.6.8)




今野緒雪

マリア様がみてる/集英社コバルト文庫
 挨拶の言葉は「ごきげんよう」、そこに集うのはマリア様に見守られた少女たち。私立のお嬢様学校、リリアン女学院の高等部1年の福沢祐巳は、学園祭を前に、あこがれていた上級生小笠原祥子にひょんなことから声をかけられる。学園独特の「姉妹(スール)」システム。一度は断った祐巳に、祥子は「妹にしてみせる」というのだが…。
 たいっへんあらすじを書きにくい舞台設定…。一言でいってしまうと仮想女子高を舞台にした少女の交流ものですが、これだけ美しく書きたてられると、元女子高出身者としてはかえって微笑ましいものを感じますわ。生徒会の設定すら美々しい。役員3名は代々白薔薇(ロサ・ギガンティア)紅薔薇(ロサ・キネンシス)黄薔薇(ロサ・フェティダ)と呼ばれ、その妹は次の代の役員として「薔薇のつぼみ」と呼ばれる。見物したい! 主役姉妹もかわいいですが、お気に入りは三薔薇様です。
マリア様がみてる 黄薔薇革命/集英社コバルト文庫
 「理想の姉妹賞」にも選ばれた黄薔薇のつぼみ・支倉令とその妹・島津由乃が姉妹を解消するという事件が発生。
 いろんな姉妹関係があるのね、と頷く一冊。学生の頃は確かにこういうことも大事件に数えられますね。由乃さんはこの巻以降ずっと「青信号」の印象です。
マリア様がみてる いばらの森/集英社コバルト文庫
 リリアン学園を舞台にしたと思われる少女小説が出版される。その作者が白薔薇さま・佐藤聖ではないかという噂が流れて学園は大騒ぎ。白薔薇さまの関係者はそろって口をつぐむのだが…。
 真性の人(おい)白薔薇さまのつらい過去の一遍。これは確かにとってもつらかっただろうなあと、作中本を読んで号泣していた祐巳さんに頷いてみたり…。こんな経験をしたからこそ今の飄々とした白薔薇さまが出来たと思うといとしくなります。ご本人迷惑でしょうけど。
マリア様がみてる ロサ・カニーナ/集英社コバルト文庫
 生徒会役員選挙編。3年生の卒業に合わせて、当然だが薔薇様方も代替わり。通常は薔薇のつぼみたちが立候補して信任されるというパターンだが、白薔薇のつぼみ・志摩子は立候補を思いあぐねていた。そこにもう一人の立候補者が現れて…。
 つぼみの中で一人だけ一年生の志摩子さん。べったりというのでもなく、さりとて放り出すというのでもなく、白薔薇姉妹の絆は不動という印象です。今回ライバル(?)の静嬢、男前でした。しかしカニーナの元ネタって。番外編はお正月編。合宿って楽しいよね〜。
マリア様がみてる ヴァレンティーヌスの贈り物(前後編)/集英社コバルト文庫
 バレンタインデー編。女子高といえど盛り上がる日に、新聞部発案のゲームに生徒会の面々が巻き込まれる。
 これもちょっと感想書きにくいな。なぜならバレンタインで盛り上がる人の気持ちがいまいちよくわからないからです(私はチョコレートが大嫌い…)。けれど大好きなお姉さまのためにがんばる祐巳さん、大変かわいい。紅薔薇ファミリーはラブラブですね。黄薔薇の連作短編も、三者三様の性格が良くわかって面白い。
マリア様がみてる いとしき歳月(前後編)/集英社コバルト文庫
 薔薇様方卒業編。前後編合わせて短編連作形式で、卒業式前の日常とそれぞれの心境をつづります。
 卒業というのはとても不思議なイベントだと思います。おおむね希望の旅立ちだったり、鳥篭からの離脱だったりしますが、学校という場所は存在しつづけていくのに、自分たちがそこで学ぶことが許されなくなるという奇妙な寂寥感。…なんてことを思い出させる「いと忙し日々」。紅薔薇さま水野蓉子さん、学生時代上級生にいらしたらおっかけしてたに違いないわ…。上巻の白眉、鳥居江里子さん「黄薔薇まっしぐら」。思い込んだらまっしぐらは黄薔薇ファミリーの特徴かしら。ともあれ行を追うごとに、回顧させられている感があってしんみりしました。
マリア様がみてる チェリーブロッサム/集英社コバルト文庫
 祥子さん令さんが薔薇様となった入学シーズン編。外部からリリアン女学院を受験した乃梨子は、実は仏教の造形美に魅せられている「逆隠れキリシタン」。外と学園のギャップに戸惑う毎日だが…。
 上記二人が薔薇様と呼ばれることが、何より代替わりの強印象でございました。けれど新キャラの1年生たちが花を添えてくれます。初々しい。長年引っ張られた志摩子さんの秘密が明るみに。
マリア様がみてる レイニーブルー/集英社コバルト文庫
 新山百合会姉妹たちの試練編。ロザリオの授受に踏み切れない志摩子、妹の新しい試みに反対する令、そして何故か祐巳を避ける祥子。
 雨降って地固まるの感ありの白薔薇黄薔薇に比べ、雨が降ったままの紅薔薇。この巻は「パラソルをさして」とまとめ読みすることをおすすめします。
マリア様がみてる パラソルをさして/集英社コバルト文庫
 紅薔薇雨降って地固まる編。
 ちょっとこれひどいよ祥子さん〜、と結末を読んでぼやいてしまいました。ともあれ大好きな姉と離され、かつこれまで的確なフォローを入れてくれていた先代薔薇様にも頼りきりになれず、結果として一回りたくましくなった祐巳さん。そして美味しいところをさらっていく先代紅薔薇様はさすが。
マリア様がみてる 子羊たちの休暇/集英社コバルト文庫
 紅薔薇姉妹高原避暑編。夏休みに祥子の家の別荘に誘われた祐巳。バカンスを楽しみに出かけた二人だが、避暑地には小笠原家と取引のある家のお嬢様たちも来ていて…。
 おそらく次の本と合わせて夏休み編、とするのが正しいのでしょうね。祐巳さんの成長が顕著。
マリア様がみてる 真夏の一ページ/集英社コバルト文庫
 学園祭準備開始編。山百合会は、学園祭の打ち合わせで花寺の生徒会の面々と会合を持つ。この機会に祥子の男嫌いを治そうとする一同だが…。
 普段顔を合わせない同士のぎこちなさの中、福沢姉弟の仲のよさが微笑ましい。このお話に出てくる男性陣はみんな紳士だと思います。
マリア様がみてる 涼風さつさつ/集英社コバルト文庫
 学園祭準備混乱編。祐巳に妹候補の噂が流れる。
 花寺の学園祭や新規参入・可南子さんの攪拌で翻弄されながらもふんばる祐巳さん。ほんとに成長著しい…。でもお話自体はまとまってないなという印象。続いてるな、ではなく。特に可南子さんのエピソードは、ちょっと唐突だった感が否めない。後の巻に期待。
マリア様がみてる レディ、GO!/集英社コバルト文庫
 体育祭編。(としか言えん)
 父兄参観のもちろんある体育祭、祥子さんと祐巳さんがお互いの家族とご対面したり、志摩子さんのパパご登場のハプニングがあったり。そして前回後味悪く別れた可南子さんとの関係修復に悩む祐巳さん。嵐の前の静けさの感あり。