椎葉周
アルティメット・ファクター/角川スニーカー文庫
 惑星横断鉄道がテロリストによりジャックされた。犯人は遺伝子操作で生み出された兵士・アルティメットたち。たまたま乗り合わせたミリタリーサービスのエージェント・リボーが敵中へと切り込んで行く。
 イラスト買い致しました。大変分かりやすいキャラクター設定と、詳述されたメカ・武器設定。この分かりやすさが好きか嫌いかで評価の分かれるお話かと思います。初回は惑星と世界設定の説明で、敵味方と問題点も明確。とっつきやすく楽しめます。(2005.2.2)
アルティメット・ファクター 2/角川スニーカー文庫
 アルティメットによる人類殲滅組織・エクスカリバーがその素顔を見せ始める。その構成員に旧知の戦友がいることを知り戸惑うリボー。そんな中、同じ剣使いだったかつての部下・マルコが、リボーを誘いに現れ…。
 かつての友と袂を分かつか共に行くかの決断。異種人類的な立場のアルティメットたちですが、テロ的な戦いでこういう敵だと確かに苦戦しますね…。小さな旗をかかげる小さなミリタリーサービス・ウィッシング・ウェル社。社長のゴスペル嬢にはふんばってほしいところ。(2005.2.3)
アルティメット・ファクター 3/角川スニーカー文庫
 アルティメットの前線基地を叩く、という依頼を受けたウィッシング・ウェル社。砂漠の中の拠点に向かうが、手ごわい狙撃手が彼らを出迎える。
 作者さん、銃器類の解説なさるのが楽しそうだなあ…。新たに登場の狙撃手ギャラガーくんがちょっととぼけていて、いい味を出しています。増える敵キャラも総じて個性的。(2005.2.6)
アルティメット・ファクター EARLY TIMES/角川スニーカー文庫
 本編の前の時間軸を舞台にした中編集。
 リボーとギャラガーの過去、人間社会の中で真面目に生きていながら、その社会からの斜めの視線を感じずにいられないアルティメットたち。しんみりしますがおすすめです。ギャラガーくんは意外と切れやすいらしい…。(2005.4.6)
アルティメット・ファクター 4/角川スニーカー文庫
 弱い人々を助けたいという願いを込めて設立されたウィッシング・ウェル社。しかし怒涛の勢いで人類社会に戦いを挑むエクスカリバーに対抗するにはあまりにも力不足で、ゴスペルは大手ミリタリーサービスとの連携を決意する。
 がんばれゴスペル! 負けるなゴスペル! 若さはこの際武器だと思え! と本気のエールを贈らせて頂きます。(2006.3.27)
アルティメット・ファクター 5/角川スニーカー文庫
 エクスカリバーに拉致されたゴスペル。今一人のエージェント・ハーンが戦線離脱し、大幅な戦力ダウンとなったウィッシング・ウェル。手がかりもなくあせるリボーたちに、謎の少女レイからゴスペルの身を楯にした取引が提示される。
 本気で苦手なタイプの敵さんが出てきてどうしようかという感じだ…。確信犯開き直り型はともかくとして、甘っちょろい正義を鼻で笑いつつ突進するタイプの人がわらわらいて大変です。味方も熱血な人ばかりなので、抑える人たちはしんどそう。表紙は何事かと思いました。一枚めくると怖いですよ〜。(2006.4.1)
アルティメット・ファクター 6/角川スニーカー文庫
 エクスカリバーとの最終決戦。嵐の吹き荒れる最果ての駅で、敵地の奥深くへと突入するリボーたち。
 最終巻です。後書きの作者さんのお言葉がかなり厳しい。もう何巻か続ける構想があったのだと思いますが、決戦が少々駆け足で勿体ない感じでした。男女カップルはまとまったのかまとまらなかったのか、微妙なところで美味しかった。単行本未収録の短編がまとめられるのを期待します。(2006.10.11)



W.シェイクスピア
ヴェニスの商人/新潮社
 舞台は中世ヴェニス。富裕な投資家アントーニオが、友人バッサーニオのために、強欲な金貸しシャイロックから金を借りる。持ち船を交易でヴェニスから離してしまっていたアントーニオは、自分の体の肉を借金の担保とした。バッサーニオは借りた金で財産家の娘ポーシアのもとに求婚に向かい、見事成功する。しかしアントーニオの船が遭難したとの報が入り、金策に詰まった彼は、裁判で人肉を切り取られそうになる。しかし裁判官に扮したポーシアの機転で、判決は大逆転を迎える。
 今更何をと言われそうなあまりにも有名な古典文学。私は長い間、ヴェニスの商人とはシャイロックのことだと思っていたのだが、本当はアントーニオのことだった。意外。
 人肉を担保に金を貸したシャイロックはユダヤ人であり、キリスト教社会とはお互いに軽蔑しあう間柄。頑固で偏屈、強欲な人物として書かれてはいるのだが、アントーニオは普段シャイロックに無利子で金を融通させており、その報復としてこうした担保を持ち出したシャイロックの気持ちもわからないではない。金貸しが利息を取らずに何で食べていけというのか。しまいには財産の半分を没収され、残る半分も彼を裏切った娘に譲ることになり、あげくキリスト教への改宗を迫られる。屁理屈により逆転した裁判で満身創痍にされたシャイロックがひたすら哀れ。
 借金の証文にサインしたアントーニオの安易さが問題にならないのが不思議。「お金が返せなかったら自分の肉で払います」と自分で納得したんだから、別にシャイロックが一方的に悪いわけじゃない。加えて又借りしたお金で求婚をしたバッサーニオ。二人ながら相当身勝手だと思うのだが。これはハッピーエンドと言えるのだろうか。納得がいかないことこの上ない。自分が正しいと思えば、人間はどこまででも厚顔になれると言う教訓だろうか(違うのは承知だが…)。
 以前読んだマンガで、「ヴェニスの商人」と「一休さん」が並んで描かれていたのを妙に思い出した。裁判というより頓知だなあ確かに。(2002.06.21)



篠崎砂美
お隣の魔法使い 始まりは一つの呪文/ソフトバンククリエイティブGA文庫
 メアリー・フィールズの隣家にツクツクさんことトウックトウィック氏が引っ越してきた。空き地に一夜にして建った家を、興味しんしんでたずねるメアリー。最初のお茶のテーブルで、なんとティーポットが電話になった!? のんびり屋の魔法使いと元気な女の子の不思議な日常の開幕。
 イラストのツクツクさんの容貌が気に入って購入。季節を追って淡々と、大事件ではなく、けれど小事件でもない不思議な出来事が、メアリーの目を通してつづられます。一話完結短編連作形式なので、さくさく読めます。肩に力が入らない良い話。ツクツクさんの正体が語られる日は来るのか。



霜島ケイ
封殺鬼シリーズ/小学館キャンパス文庫
 雷電と大江山の酒呑童子が現代まで生きていて、鬼や怨霊と戦うという話。阿倍晴明ゆかりの、1000年以上に及ぶ長い歴史を持つ陰陽道の家系に「使役鬼」として使われ、人間と関わりあいながら、迫り来る巨大な敵(大部分は異常気象の元)に立ち向かう。シリアスな話ながら、鬼の片割れの天然ボケあるいはお笑い精神が緊張感を片端から打ち壊し、彼らを取り巻く人々の図太さしたたかさが拍車をかけて、最後まで後ろ向きにならないあたりが実によし。長いシリーズだが、一応頭から順に読むべし。
鬼族狩り 封殺鬼1
妖面伝説 封殺鬼2
朱の封印 封殺鬼3
ぬばたまの呪歌 封殺鬼4
邪神は嗤う 封殺鬼5
紺青の怨鬼 封殺鬼6
闇常世 封殺鬼7
修羅の降る刻 封殺鬼8
鳴弦の月 封殺鬼9
花闇を抱きしもの(上下) 封殺鬼10・11
マヨイガ(上中下)封殺鬼12〜14
影喰らい 封殺鬼15
夢埋みの里 封殺鬼16
紅蓮天女 封殺鬼17
まほろばの守人 封殺鬼18
追雛幻抄 封殺鬼19
陰月の冠者 封殺鬼20
昏き神々の宴 封殺鬼21
忌みしものの挽歌 封殺鬼22
炎華の断章 封殺鬼23
黒白の絆 封殺鬼24
カーマイン・レッド(上下)/角川ビーンズ文庫
 小張乃莉さんのイラストにつられて買いました。表紙のエイジュを女の子だと思ってたのに…少年か(ふっ)。気を取り直しまして。銀河系宇宙に人類が進出した時代、ジャスパーはとある「ゲーム」に参加して砂の惑星に降り立つ。文明から置き去りにされた感のある、イスラム様式の文化の星は、ある大きな秘密を抱えていた。無機質無表情なテロリストの少年エイジュとともに、秘密の中枢へと向かうジャスパー。「ゲーム」参加者が次々と脱落していく中、たどりついた「聖地」の正体とは。
 上巻終了時点で、星の秘密についてあれこれ予想していたのですが、見事に全部はずれました。非常に荒唐無稽な設定でした。しみじみ。正直、上下巻だとちょっと足りない話だったと思います。星の秘密自体にはそれなりな決着がつきましたが、主人公二人の人生はこれから。
琥珀のティトラ 聖女さま、参る!/角川スニーカー文庫
 動乱が始まった大陸。300年前に現れて世を静めた聖フランセスカにあやかり、精霊が統治する統都から、三人の聖女が世直しの旅に出発する。何故かその従者に選ばれてしまったティトラは、個性豊かな聖女の面々と精霊キナに振り回されつつ、旅に同行するのだが…。
 ティトラは一人称が「オレ」の少女です。盗賊ですが素直で、聖女伝説に眉ツバを感じつつもあれこれと戦争と平和に思いを馳せる姿がとても可愛い。軍人出身の聖女と娼婦出身の聖女、大魔法使いの聖女(といいつつも…)と聖女たちの顔ぶれもにぎやかです。コメディですが締めるところは締める。(2002.09.16)
琥珀のティトラ 聖女さま、走る!/角川スニーカー文庫
 「参る」の続編。前作と変わらず世直し旅を続ける聖女一行。次の騒ぎを収めたら休暇がもらえるというので張り切る約一名。突発的な小競り合いを止めるだけかと思われたが、戦端には思わぬ背景が合った。攻め込まれた側の国の王は、亡くなった王妃をよみがえらせる術を探るため、行方知れずになったというのだが。
 聖女一行の近衛として付き従う青年がクローズアップされてきました。鈍い(本当に鈍い)ティトラが小悪魔に見えたり…。しかし今回もそれはそれは一生懸命なティトラが可愛い(他に言うことが見つからん)(2002.09.18)。
玉響に散りて/小学館キャンパス文庫
 長いシリーズも25巻を迎え、いよいよ巨星のひとつが落ちました。物語開始から作中2年もたってないんですね。もっとずっと時間がたっているような気がしましたが…。ロマンスグレーの魅力爆発のこの巻。次期たちの不安定さに、身をもって範を示す必要に駆られたか、秋川・神島とも親世代がふんばります。三吾も兄離れの一幕。佐穂子と成樹が二人だけで気を吐いていた感のあったここ数巻の間、煮え切らなかった他家ご一同も、見事に憑き物が落ちました(約一名除く…)。これから正面対決まで突っ走ってほしいところ。(2003.2.12)
終の神話・天泣の章/小学館キャンパス文庫
 怒涛の敵の正体謎解き編。天津甕星の正体を見極めるため東北に飛ぶ三吾を筆頭に、各家の得意分野と人脈を駆使して戦いの準備にいそしむ次期たち。頼もしいわ…。自分のスタンスを確たるものにするために賭けに出る弓生、支える聖。最終章に向けてとはいえ、不穏な空気がことに不安…。
終の神話・地号の章/小学館キャンパス文庫
 天泣と一気読みしました。古代神話に登場する神様がすべての謎解きの源。元になる本に詳しくないのですが、その私ですら知っている神様たちの陰謀が今回の騒ぎに深く関わっています。しかし最大の敵の正体がわかってきたのは良いんですが、その影にいる雑多な(と言ったら失礼か)敵たちも侮れず…。あまり極道なところで切られていたらいやだと思って、地号が出るまで天泣読むの我慢したのに、なんで、なんでここで切れるのー(絶叫)。とある方の命を悼みつつ、待て次号。早くしてください…。



ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
魔法使いハウルと火の悪魔/徳間書店
 魔法が存在する国インガリー。三姉妹の長女ソフィーは、ある日荒地の魔女に魔法をかけられ、90歳の老婆の姿にさせられてしまう。家族の目を逃れて家出した彼女は、ナルシストの魔法使いハウルの家に住み込むことになる。
 ジブリ「ハウルの動く城」の原作。読む前に映画を見たので、違いを興味深く比べながら読みました。ソフィーを取り巻く世界と荒地の魔女をメインに、三姉妹それぞれの恋愛模様、魔法のアイテムが楽しめます。