槙ありさ

青狼めざめる 時光の隊士/角川ビーンズ文庫
 (Yahoo Booksより転載)まっすぐな性格だけど、カッとなると我を忘れてしまうため、ケンカっぱやい高校生・浅野喬生。そんな喬生の前に、ある日、ふたりの青年が現れる。彼らの名は、土方歳三と沖田総司。―幕末の世、「新選組」として時代を駆け抜け、ともに若くして命を落としたはずのふたりは、実は不老不死となって生き抜いていたのだ。謎の男たちに狙われる喬生を守るために戦う土方と沖田。喬生が狙われる理由と、その「正体」とは…。(転載ここまで)
 新撰組ものなんですが。いやーファンタジーでした。買うか買わないかぎりぎりまで迷ってましたが、結局イラスト買い。表紙の「学ランに浅葱の隊服を羽織った喬生」がすべてを物語っていると思われます。土方と沖田の関係が、ぎりぎりというかなんというか…。私は土方と言う人は、新撰組にとっても本人にとっても重要な死に場所をもらった人だと思っているので、読むまで設定があまり気に入らなかったのです。でもそのあたり、ちゃんと作中でフォローがありまして一安心。個人的に喬生の性格と恋愛模様が好みでした〜。
青狼さまよう 時光の隊士/角川ビーンズ文庫
 改めて剣道を始めた喬生。前回の事件はひとまず解決したかに見えたが、ある日道場にやってきた美少女に、土方や沖田に感じたのと同じ奇妙な懐かしさを覚える。予感と焦燥を抱えて朱鷺神社に足を運んだ彼の前に、懐かしい姿がまた現れる。
 登場人物紹介に、ごまかしきれない大誤植があります。主要人物の名前を堂々と間違えちゃいけないわ。それはともかく、前回の続編。相変わらず時光玉探索を続ける土方と沖田。類は友を呼ぶのか、新撰組の幹部は玉をひきつける運命にあるのか、またしても喬生の近辺で事件発生です。新撰組の本を読んでいて何がつらいかって、一度は同じ隊で信頼関係を結び合った仲間たちが、時流の中で別れ別れになっていくこと。しかも大部分が死に別れ…。今回は当事者の心に残った傷を、生まれ変わってやり直している感あり。郁美嬢もがんばりました。いい女だわ〜。
瑠璃の風に花は流れる 黒の王太子/角川ビーンズ文庫
 海・空・陸、三界の守護を受けるという伝説の国・朱根。しかし隣国黒嶺の侵攻を受け、制圧されてしまう。朱根の王女・緋奈は抵抗を試みるが、黒嶺の王太子・芦琉に連れ去られる。緋奈は王太子妃に定められているという。忠実な守役・深波に支えられつつ、敵地での生活を余儀なくされる緋奈だったが…。
 ビーンズ文庫の基本(かな)、恋と冒険のファンタジー。がんばる女の子が主人公。登場人物や国名からわかるとおり、名称設定はチャイニーズテイストですが、建造物とか軍編成などが西洋石組み文明を髣髴させます。朱根にまつわる秘密と財宝の奪い合いを軸に、緋奈と芦琉の心の交流が始まるまで。地図がほしいわ〜。
瑠璃の風に花は流れる 紫都の貴公子/角川ビーンズ文庫
 黒嶺の生活になじみ始めた緋奈。冬を前に、芦琉の弟が乗り組んだ船が帰国する。南の港町へ、芦琉に連れられて出向く緋奈。しかし船長の澪良は有能な女性で、芦琉の側室志願だと公言してはばからず…。
 女性キャラが増えるのは率直に嬉しい。今回表紙の構図が内容に素晴らしくマッチしてます。財宝の所在がもうひとつ、さらに深波の出自も明らかになり、対して朱根と黒嶺の王家にまつわる謎が増え…。大変だな緋奈姫。しかし雷音の行動が唐突な感じがするわ。この人、自分の国ではどんなポジションなんだろう。



アン・マキャフリー

天より授かりしもの/創元推理文庫
 中世風異世界が舞台。天から授けられる能力―――天賜がありながら、それを使うことの出来ない王女ミーアン。少しも自分らしく生きられない生活に嫌気がさし、ついに城を出て森の奥の小屋に新天地を求める。新しい生活をはじめようにも勝手がわからず途方に暮れる彼女の前に、ひとりの風変わりな少年が現れる。
 マキャフリーといえば思い出される、惑星や宇宙を股にかけたSFでも、天を自在に駆ける竜の話でもなく、天から授けられる天賜と自分の生活との食い違いに悩む少女だけを軸にした話で、どことなく地味です。その食い違いは勘違いやただの反抗ではなく、ミーアンが地に足を着けて「自分」を見つめなおした結果発生したものなので、読んでいて好感が持てました。見出した道を突き進むミーアンと、その助けとなるウィスプ。出会うことの出来た二人に幸多かれ、といったところ。



松岡なつき

FLESH & BLOOD1/徳間キャラ文庫
 (Yahoo Booksより紹介文転載)イギリス海賊の英雄キャプテン・ドレイク―彼に憧れる高校生の海斗は、夏休みを利用して、海賊巡りの旅を計画。ところがドレイクゆかりの地プリマスで、海斗はなんと、次元の壁に飲み込まれ、大航海時代へタイムスリップ!!ドレイクの信頼も厚い、海賊船の船長ジェフリーに助けられ…!?エリザベス女王率いる海賊達と、スペイン無敵艦隊がくり広げる海洋ラブ・ロマン。(転載ここまで)
 読んだきっかけが定かではないのですが、多分イラスト買い。著者は歴史もの分野に強い方なので、破天荒な設定の割に歴史的背景はきっちりと書かれています。レーベルはボーイズラブで、この本もこれから先確実にその道をたどると思われますが、この巻は普通の活劇ものとして読めます。身を守るすべを持たずにタイムスリップした海斗が、頭の回転と歴史的知識と口車、ならびに誠意でジェフリーと船の仲間たちになじもうとする姿が面白い。「王家の紋章」のキャロルも歴史的知識があり、「天赤」のユーリは知識はないけど運動神経と軍略があった。タイムスリップで生き延びようと思ったら、どうがんばっても一芸は必要と言うことですね。
FLESH & BLOOD2/徳間キャラ文庫
 (Yahoo Booksより紹介文転載)イングランド海賊の船長ジェフリーと、初めての航海に出た海斗。けれど、途中で嵐に見舞われ、敵国フランスの港に上陸する。そこで偶然再会したのは、なんと黒衣のスペイン貴族ビセンテ。未来が読める予言者として、海斗の奪取を狙うジェフリーの仇敵だった!!「命にかえても、おまえは俺が守る!!」祖国への愛と海斗を賭け、ジェフリーは、激しく剣の火花を散らすが…。 (転載ここまで)
 ビセンテ氏は割を食ってるなーと、つい同情したくなる続刊。最初にタッチの差で海斗を掻っ攫われた、このタイミングの悪さがついて回ります。ちょっと思い込みが激しいのが玉に瑕ですが、自分の宗教観に自信のある人は、異教徒や無神論者が自分の宗教に改宗したほうが幸せだと思うものなのでしょう。イングランド人に対する偏見もあるようですし(しみじみ)。海斗は船酔いと戦いつつも、船の中に居場所を見つけつつあるようでまずはよかった。まだこの巻も、一応BLではないです。そろそろ危ないかなー。
FLESH & BLOOD3/徳間キャラ文庫
 スペインの商船の拿捕に成功したグローリア号。略奪の戦果に沸く一行は、スペインの情報を引き出すべく商船の船長を歓待するが、海斗はそこで重大なことに気づく。この世界は、彼のの知る世界と歴史が違っている―――。知識を頼りに占い師としての地位を固めてきた海斗は不安に陥るが…。
 航海長ナイジェルと和解を果たした海斗が剣の稽古をする冒頭シーン、船の中での交流振りが良くわかって大変微笑ましいです(大変そうですが…)。ジェフリーとナイジェルがそろっていい男ぶりを発揮していて堪能できます。しかし舞台が船の上に移ると、当たり前ですがモブにも女性がいなくなって寂しいわ。歴史上の齟齬に気づいてしまった海斗は自信をなくしてしまいますが、これは確かに怖い…。船の中に居場所を確保してからは、タイムスリップしても言葉は通じるし歴史上の先のことはわかっているしで、海斗のふざけた占いも安心して読んでいられましたが、これからはそうはいきません。けれど広げた風呂敷は、そう簡単にはたためない。ファイトだ海斗。まだかろうじて、ボーイズラブにいたっていません。
FLESH & BLOOD4/徳間キャラ文庫
 宝の山とともに母港に凱旋したグローリア号。陸地で命の洗濯をとはしゃぐ一行だったが、港には女王の秘書長官ウォルシンガムの使者が待ち構えていた。情報機構の元締めである彼が存在の怪しすぎる自分に目をつけたかと不安に陥る海斗だが、女王の召還命令とあっては逆らうことは出来ない。ジェフリーとドレイクに伴われて宮殿へと赴くが…。
 ごめんよ海斗。読んでいて最初に、「うらやましい…」と思ってしまった。焼けてしまった歴史上の建物も、イングランド古典劇も生で見られるなんて。シェイクスピアとエリザベス女王とマーロウとその他歴史上の有名人にじかに会えるなんてっ。それどころではないのは承知の上なのだけれども、うわー見てみたい! しかし陸に上がった船乗りは、権謀術数を前に大苦戦。シリーズ初の以下続刊は、海斗たちの側の旗色最悪にて終了。この巻と次の巻はまとめ読みをおすすめします。で、とうとうボーイズラブ注意報発令です。
FLESH & BLOOD5/徳間キャラ文庫
 主教殺害の嫌疑をかけられた海斗の無実の証をたてるべく、ウィンチェスターへと向かうジェフリーとナイジェル。拷問はしないという約束を取り付けはしたが、海斗は悪名高いロンドン塔に閉じ込められ、不眠と絶食を強いられる。裁判までの期限はたったの四日間。全力を尽くす二人だったが…。
 科学捜査やら解剖やらをさんざんやってもまだ犯人を間違うことがあるんだから、それを思うとこの時代の事件捜査ってずさんもいいところなんですね。海斗はたったひとりの讒言のために窮地に陥りましたが、そこから救うためには5や10の証言では足りない。海斗を助けるべく走り回るジェフリーとナイジェル、二人それぞれの誠意と真剣さが見もの。
FLESH & BLOOD6/徳間キャラ文庫
 やっと船に戻れることになった海斗たち。気の重い陸地と別れられると喜んだのもつかの間、フランスからの使者を国へ送り届けることになって…。
 グローリア号にはまだ戻れません。お話の内容的には一休みの巻。フランスからのダンディな客人を連れて行くことになった彼らですが、普通に安全に航海が終わるはずもありません。この時代の海戦のシビアさがうかがわれる話。