毛利志生子

深き水の眠り/集英社コバルト文庫
 容姿も性格も何もかも平凡だと自認する少女沙月は、ある日夜の雑踏で赤い髪の青年と出会う。自分の名を呼べ、と青年「吼」に迫られる沙月。沙月の先輩である玻瑠佳は、彼女のことを「蛇巫」の能力を持つ者だと言う。目の中に水蛇を飼い、それを使役する能力を持つもの。蛇巫に出会えない水蛇は、やがて人間を襲うようになる。吼はその水蛇だというのだが。イラストが藤田麻貴さんなので買った。前半の沙月と友人達のエピソードが少々だるく感じられたのだが、ところがどっこい、である。これがあるのでラストがひときわ切なかった。蛇巫と水蛇の関係が危うげで面白い。(2001.06.30)
まどろみの闇/集英社コバルト文庫
 「深き水の眠り」2作目。前作の最後ですれ違いっぱなしだった吼と沙月の再会編…なのだが、けっこうあっさり決着がついたのでちょっと拍子抜け。でも読者からするとあっさりでも、登場人物にしてみればそれどころじゃない。夏のリゾートに向かった沙月に、思いも寄らぬところで一年前の殺人事件がからんでくる。主犯格の男に陥れられる沙月を、玻瑠佳たちが助けるシーンが見ものだった。(2001.07.01)
月光の淵/集英社コバルト文庫
 「深き水の眠り」3作目。沙月の周囲でまたしても怪異が発生。地学部に足を突っ込みかけた彼女の前に、ある日人語を解する亀(大真面目だ)を連れた青年が姿を現す。かつて水蛇を食べたという彼は汀と名乗った。200年生きた蛇巫であり、不老不死となった体を戻す方法を探していた。彼の持つ水晶は、水蛇を飲み込む力が有るという。怪異を探る沙月と共に成瀬の家に向かうが、その水晶に吼が飲み込まれる。
 あくまで普通の感覚を損なわずにいたい沙月嬢と、水蛇の吼の感情が行き違う。吼がけなげだなあ、と思わずにいられなかったです。沙月嬢にもさばけた性格のお友達ができて嬉しい。で、汀さん! 良い味出してました。大雑把な人ですが、今回いてくださってありがとうっ。
外法師 鵺の夜/集英社コバルト文庫
 平安時代。不思議の術を使う外法師の玉穂が、中宮(藤原道長の娘)の呪詛事件を阻むべく活躍する。幼い頃の火事の後遺症で、体が10歳から成長しなくなった玉穂だが、外法の力は並ならぬものがある。その彼女を見守る綺童丸がまた良いです。今回脇役の中宮がりりしかった。
琥珀の夢/集英社コバルト文庫
 深き水の眠り4作目。玻瑠佳が修学旅行先の奈良で姿を消す。吼と共に奈良に飛んだ沙月は、玻瑠佳の足取りをたどるうち、思わぬ人物に再会を果たす。今一人行方知れずの仏師の探索も加え、吼と沙月が奈良路をめぐる。
 今回は人探しの要素が強かったためか、前三作と微妙に趣が異なりました。事件が起こっている、あるいは起こりつつあるのは確実なのに、そこにたどり着くまでの道のりがつかめない。沙月嬢は今回最後のほうまで渦中の人ではありませんでしたが、そのために却って人としてのあたりまえの迷いと、反してある蛇巫としての悩みとの間に落ち込みかけ、その都度吼が上手く救い上げていました。新登場キャラも再登場キャラもがんばっていて、シリーズ既刊の中で一番平穏な読後感がありました。(2002.03.31)
外法師 冥路の月/集英社コバルト文庫
 外法師2作目。玉穂の守る星井戸に、吉祥天が姿を現す。その残した言葉を辿って玉穂と綺童丸が訪れた屋敷には、うち捨てられたような姫ぎみが一人。寂れていく一方の館で、玉穂の術も鈍りがちだが…。
 1作目と変わらずりりしくかわいらしい玉穂。今回は身分の落差の激しい時代の裏で、虐げられ、あるいは見捨てられる弱い人々の存在がクローズアップされました。前回は政争の中心部、今回は外辺部といった趣。玉穂がスーパーマンではなく、どうしても救えない人というものが存在し、それでもできる限りの力で事件を解決しようとする姿勢に好感が持てます。一回限りの脇役陣も何かしら成長してるし。(2002.6.1)
外法師 レイ鬼の塚/集英社コバルト文庫
 タイトル「れい」の字が出ません。外法師3作目。任官請願書の代書を依頼された玉穂は、雪の中を依頼主の貴族の屋敷に赴く。しかし家主はそこで催されている法会に手を割かれており、玉穂は仕事を与えられないまま手持ち無沙汰な数日を過ごす。法会を行う僧侶・行勧と親しくなるが、ある夜血の海の中で彼の弟子が倒れているのが発見される。
 第1作目の困った陰陽師が再登場。事件を調査する玉穂の前で見え隠れしながらもするりと逃げていく核心、その違和感ともどかしさを実感できます。社会の背景や生活様式が全く異なる時代から、現代でも理解しうる情景を丁寧に描写しているので読みやすい。
硝子の枷(上下)/集英社コバルト文庫
 交通事故に遭った友人由真の代理で、テレビ局でアルバイトすることになった沙月。「はぐれ」によるものと思しき事件が発生し、探ろうとする彼女の鼻先を、明らかに人間の手になる事件が交錯する。
 ミスディレクションにまんまとひっかかってしまいました。けれど結果に納得できましたので、謎解きを含んだ話の読後感として嬉しいことです。さらに言えば、私が腐女子系のエピソードに納得できるのも本当に珍しいことです…。詰め込みすぎず間延びせず、上下巻一気読みでちょうど良い感じ。沙月と吼も互いの関係を見つめなおしつつあり。恋愛とは言いがたいけれど、主従というのともまた異なっている二人。焦らずに一緒にいて欲しい。(2003.1.11/2003.1.14)
外法師 髭切異聞/集英社コバルト文庫
 (Yahoo Booksより転載)時は平安。外法師の玉穂のもとに、源頼光の家臣・金時が現れた。頼光の姫君・有花里が鬼にさらわれてしまったのだが、折悪しく、金時の同僚の渡辺綱が、鬼を斬る力を持つ妖刀"髭切"を持ったまま行方不明になっているのだという。玉穂は、有花里を助けるために大江山の鬼・酒呑童子のもとにむかうが、そこで鬼同士の抗争に巻き込まれることに!?特別描き下ろしまんが付き。
 個人的に好きな渡辺綱が大活躍の巻。彼の磊落さは、なるほど名刀の主にふさわしいものかと思います。今回は「異」のほうにスポットが当たったお話。鬼だって単に人を襲って食べてれば良いってものではないんですね。有花里姫ともども、玉穂がまた小さい体で獅子奮迅。てか毎度無理しすぎ…。
外法師 孔雀の庭(上下)/集英社コバルト文庫
 都で奇怪な殺人事件が連続して発生。被害者の家の庭には、なぜかいつも青い蓮の花が咲いていた。その共通点を手がかりに犯人を探す玉穂だが、なぜか思うように術が使えない。「孔雀様」と呼ばれる宗教組織の僧侶に勝負を挑まれ、窮地に陥る。
 シリーズ最終巻。玉穂ともこれでお別れかと思うと寂しいわ…。今回の相手は玉穂の境遇を熟知した強敵。殺人事件と同時進行で宗教団体探索、さらに玉穂自身の不調とも戦わねばならず苦戦します。が、毎度変わらぬ綺童丸の存在と、今回相互共生を実現した薬師の女性が助けとなってがんばりました。で、何が嬉しいって大人の玉穂ー! 小さい玉穂もかわいらしいですが、成長した姿で術を操る姿はきっとさぞかしりりしいことでしょう。読後感が良かったです。
風の王国/集英社コバルト文庫
 七世紀、唐時代の中国。皇帝李成民の姪翠蘭は、皇帝の娘として吐蕃(チベット)王に嫁ぐこととなった。馬も剣も巧みに操る彼女は、皇帝の姪だが市井育ちであり、娘と偽って嫁ぐことにどうしても不安を覚えていた。婚礼に向かう長い旅路の途中、謎の一団に襲われ、彼女は一団の頭と思しき男とともに川に流されてしまう。
 第二代皇帝太宗の娘がチベットに嫁いだという歴史的事実に基づいたお話。ネットでざっと検索をかけたところでは、いずれも賢婦の美談調のお話がひっかかりますが、この本のお姫様はとても活発で素直な性格。当時唐からすれば蛮族だった地方へ嫁す少女を待つ運命の出会い。王道ロマンスです。歴史的背景ときっちりからんで素敵。
風の王国 天の玉座/集英社コバルト文庫
 政略結婚の末とは言え、初恋を実らせた翠蘭。吐蕃の人々は温かく彼女を迎えるが、唐とはあまりに異なる風俗と習慣、新しい家族になかなか慣れることができずにいた。そして開かれる領主会議。国と王位を巡る謀略が彼女に押し寄せる。
 城の人々や義理の息子とのぎこちない交流、何より右も左もわからぬ国でいきなり妃としての役割を果たさなくてはならなくなった翠蘭の苦労が…ほんとに気の毒というか何というか。頼りにすべき旦那も、気遣いがちょっと空回り気味。余計なことを考えるな愚か者、と旦那をどつきたくなりました。中盤以降の陰謀から結末まではベタな展開でしたが、スピード感があって楽しめます。ただ人名が、ソンツェンとツェンソンとクンツェンと、…えーい紛らわしい。呪文並みに丸覚えが必要なようです。



森博嗣

すべてがFになる/講談社新書
 推理小説。建築学科助教授犀川創平シリーズ1作目。おそらくある程度パソコンをかじったことのある人が一番楽しめるのではないかと思う。
冷たい密室と博士たち/講談社新書
 推理小説。建築学科助教授犀川創平シリーズ。大学の冷凍実験を行う研究棟で起こった二つの密室殺人の謎を犀川氏が解く。



森岡浩之

月と炎の戦記/角川スニーカー文庫
 神話時代の日本。アマテラスが天の岩戸に隠れてしまい、地上は既に1年も闇に閉ざされている。狩人の少女カエデは、闇に乗じて現れた妖を退治するよう(無理に)選びだされ、村からただ一人離れる。だが途上で危機に陥った彼女は、闇のなかでもただ一人変わらず地上を守護する(と思われていた)神、ツクヨミを呼び出すが…。
 そりゃもう、長年神さまやってれば退屈でしょうねえ…というのが最初に読んだとき思ったこと。カエデがとても元気で率直かつ怖いもの知らずなので読んでいて思わず笑みが。彼女を好きになれる人なら楽しめる話です。(2002.5.18)
退魔師はがけっぷち 月と闇の戦記1/角川スニーカー文庫
 現代です。…が、月と炎の戦記で登場したあの方とかこの子とか…あれ? 現代日本で貧乏退魔師をやっている隆生。半ば押しかけるように仕事をもぎとり、幽霊屋敷に調査に出かけた彼は、そこで風変わりな美形の兄妹+肉食のウサギと出会う。
 前4分の3がコメディ、最後はシリアスにバトル。有名なシリーズの作者さんというだけあって、文章のメリハリが利いていて読みやすく、またこれ単独でも読めるようにしてあるのもわかるのですが、多分月と炎の戦記を読んでおかないとつまらないと思います。兄妹の正体を知らないまま除霊と調査に奮迅する隆生にエールを送りたい。がんばれ。(2002.5.19)