結城光流
異邦の影を探しだせ/角川ビーンズ文庫
 平安中期。半人前の陰陽師・安倍昌浩は、かの安倍晴明の末孫。元服を迎え、低級官吏として出仕した宮廷で、異邦のものと思しきあやかしの影を見る。相棒のもののけ・もっくんとともに探索をはじめるが…。
 読みやすく楽しい話。晴明が本当にたぬきじじいなあたり、とても好感が持てます。藤原道長の一の姫・彰子嬢と昌浩の出会いがほほえましくて良かった。晴明配下の十二神将は、これから徐々に出てくるのでしょうか。この巻では数人だけですが、いい男が多そうで楽しみ。(2003.2.13)
闇の呪縛を打ち砕け/角川ビーンズ文庫
 異邦のあやかし・窮奇の居所を探して都を奔走する昌浩。彰子から遠縁の姫が取り憑かれたらしいと知らせを受け、調査に向かおうとするが。
 いやもう、ほんとに二人してかわいいわ〜。お互いに相手のためにできることを一生懸命に考えているあたり、読んでいて頬が緩みます。(2003.2.14)
鏡の檻を突き破れ/角川ビーンズ文庫
 ついに窮奇による犠牲者が都人に出始めた。見回りの日々の中で昌浩は彰子とより親しくなるが、彼女が入内する日が決まってしまう。彰子を巡る呪詛が発動。彼女のためにと、昌浩は一層の覚悟で異邦のあやかしたちの探索に当たる。
 対窮奇決着編。彰子嬢の裳着の後、御簾に隔てられた二人の会話が涙を誘います。実は窮奇との決着より、この二人の行く末の方が気になっていたと言ったら顰蹙かしら。読み進むスピードが倍増してました。それにしても昌浩には是非、怪我をせず気絶もしない闘い方を学んで欲しいと思います…。(2003.2.15)
禍つ鎖を解き放て/角川ビーンズ文庫
 新章開始。長い療養を終えてやっと出仕した昌浩は、陰陽生たちから冷たく当たられる。それでも都を彷徨う怨霊の噂を聞き、見回りを続けているが…。
 確かに事情を知らない人からすれば、偉大な祖父の七光りを嵩に着ているお子様と見られても仕方のないところかと思います。白眼視している側が生真面目に努力しているならばなおのことでしょう。そのあたり謙虚に受け止めている昌浩はえらい。陰陽師の世界は本当に生まれつきの才能に左右されるようで、晴明の孫という肩書きは幸いなのか不幸なのか…。ともあれ今回の敵は強そうです。もっくんと二人、脱・半人前目指して修行修行。最後に、六合×風音嬢! 主人公カップルをしのぐいきおいで気に入りましたですわ。今回ちょーっとしか絡んでませんが良い感じでした。(2003.2.16)
六花に抱かれて眠れ/角川ビーンズ文庫
 都をさすらう霊に遭遇した昌浩は、その思いに同情して浄化の打開策をさぐることとなる。謎の術師風音は、かつて奪ったはずだった命が永らえていたと知り、改めて昌浩を狙うが。
 六合×風音嬢が…っ! 絡みが! イラストまで! 嬉しいですわ〜。晴明と十二神将の過去にまつわるものであろうと予測される敵ながら、正体はいまだに不明。たぬきじじい氏はある程度推測しておられるのでしょうが。強敵を前にして、出会った霊の思いを見過ごすことのできない昌浩と、自身の悩みを抱えつつもそんな彼を見守るもっくん。両者成長著しく将来に期待。(2003.2.19)
黄泉に誘う風を追え/角川ビーンズ文庫
 星が翳り、都が瘴気に包まれる。晴明と昌浩、十二神将たちは都を守るべく探索を重ねるが、強敵を前に神将の禁忌が足かせとなる。それでも敵に迫る昌浩と紅蓮。だが戦いの中で互いの姿を見失ってしまい…。
 風音編(正式名称になったらしい)に入って後、延々唱え続けてきたカップリングが今回も絡んでうれしいなーとか、新登場の神将は色っぽいお姉さんでうれしいなーとか…不穏な空気から敢えて眼をそらしつつ読み進んでいったらば、ラストが。…ここで、ここで切るんですか。殺生な! 続編を御急ぎくださりませ。(2003.4.25)
焔の刃を研ぎ澄ませ/角川ビーンズ文庫
 (Yahoo! ブックスより転載)時は平安。晴明の後継・昌浩は、重い運命の選択を迫られる。黄泉の封印をとくための鍵として、紅蓮の魂は屍鬼にとりこまれてしまった。封印を守るため紅蓮を殺すか、なにもできずに黄泉の軍勢が人を滅ぼすのを見ているか…!?失いたくないと、心の一番奥が叫んでいる。けれど―。逡巡の果て、昌浩はある一つの決意を胸に、宗主が潜む出雲国へと出立した!シリーズ風音編、激情のクライマックス。
 クライマックス…そう、クライマックスなのですわ。恐れていた展開に(号泣)なってしまって。命と想いを天秤にかけて、昌浩は大変しんどい選択をしました。どうしてこの子が毎度毎度あんなに傷を背負って戦う羽目になるのか、良くわかってしまって悲しいわ…。風音編は終わりましたが、昌浩ともっくんの今後が大変心配です。ところでこのタイトル、とっさに命令形だと思わなかったのは私だけかしら。
うつつの夢に鎮めの歌を/角川ビーンズ文庫
 少年陰陽師短編集。タイトル作など4篇収録。
 前作まで怒涛の展開だったので、一息つきつつ次の展開に備えるのにちょうど良い本だと思います。昌浩ともっくんの出会い編、晴明が神様とお酒を飲む編など。表題作では、お正月期間に身を隠す彰子嬢のため、隠れ家のお掃除をする昌浩ともっくんプラス物の怪たちがかわいらしくてもう。この子達が出てくると妙にほっとするわ…。各章タイトルページのもっくんのイラストもかわいいです。
真紅の空を駈けあがれ/角川ビーンズ文庫
 傷が癒えず出雲に足止め中の昌浩。命の代わりに、陰陽師として重要な「目」の力を失い、さらには記憶をなくした物の怪の言動に傷つけられる。しかし近在の村で発生している怪異をほうっておくことも出来なくて…。
 昌浩兄の成親さん、いいお兄さん振りを発揮。十二神将たちも支えあぐねている昌浩の心を、身内年長者として救ってくれています。自ら選んだ道だけに、一層昌浩がかわいそう…。他人のせいにできる性格をしていたらもうちょっと楽だったのに。主役コンビがおどろ線を背負ってる横で、勾陳姐さんや神将お子様ズが活躍。
光の導を指し示せ/角川ビーンズ文庫
 都に帰ってきた一行を、晴明が倒れたという急報が迎える。
 あらすじも何も、この巻この一事が最重要項目。彰子嬢の異母姉妹の中宮が本格登場、おまけに彼女をねらう影あり、異国の妖異の蠕動ありとてんこもりの一冊ですが、どうしたところで寄る年波(ちょっと違うか)にかなう術なんかありません。術をつかわずおとなしくしとれ、と私なんぞでも思いますが、それができるならじい様じゃないのよね。さすが昌浩の祖父。相変わらずこんなとこで切らないで欲しいってところできっちり切ってくださいます。次の巻とまとめ読みしたかった…落ち着かないから…。
冥夜の帳を切り開け/角川ビーンズ文庫
 天狐同士の争いに巻き込まれる晴明と昌浩。天狐を狩る男に力を得た怪僧が中宮章子を狙う。彰子に頼まれた昌浩は、中宮の護衛をしながらも、懸命に晴明の命を救う方法を探すが…。
 中宮様受難。安倍家の面々も十二神将も苦労してますが、なんというか章子様のみ、「渦中にいるのに蚊帳の外」という扱いで…おまけに本人もそれを感じているようで、それがなおさらかわいそう。今回はこの姉妹、どちらも受難ながらがんばりました。安倍家長男は末弟のための根回しを着々と進行中。良いなあこの兄弟。それにしても昌浩は、甥っ子からの文に返事を書いたのだろうか。



ユール
高等遊民・高山鏘の事件簿 WHYDUNIT/集英社コバルト文庫
 「高等遊民」という字面にひかれて読んだ。主人公の高山鏘は十九歳の青年だが、大財閥の御曹司で、15歳で大学を卒業した天才で、現在は実家で読書三昧の日々を送っており、周囲もその人生を認めているというなんともうらやましいお方。推理小説マニアで、その洞察力は一目置かれている。あるとき彼の妹の通う学校で連続変死事件が発生。時を同じくして起こった占い師の殺人事件との意外なかかわりを彼が見抜く。
 ミステリとして読むなら生ぬるい。自分が言っているのは「推量」であって「推理」ではないという主人公の姿勢、大部分が実際にそのとおりなので笑えません。主役の悩みどころが若くてほほえましかった。読むなら推理物としてではなく少女小説として読んだほうが良いと思う。