横溝正史
幽霊座/角川文庫
 金田一耕助もの。歌舞伎役者の失踪にからむ殺人事件。
女が見ていた/角川文庫
 妻殺しの嫌疑をかけられた男の話。
悪魔の設計図/角川文庫
 金田一もの。
幽霊男/角川文庫
 金田一もの。ヌードモデルの殺人事件。
魔女の暦/角川文庫
 推理小説。金田一耕助もの。「魔女の暦」という演劇の舞台で魔女の役を務めた女優たちに迫る連続殺人の恐怖。他に短編1作。
恐ろしき四月馬鹿/角川文庫
 推理小説、あるいはなぞ解き小説。著者が20代前半頃に発表したものを集めた短編集。
誘蛾燈/角川文庫
 推理小説。やはり著者の初期のものを集めた短編集。
幻の女/角川文庫
 推理小説。著者の初期の短編集。
殺人鬼/角川文庫
 推理小説。金田一耕介を主役にした短編4本を収録。
7つの仮面/角川文庫
 金田一耕介ものの短編集。おどろおどろしさは横溝作品としては低めで、トリックを見破る偶然と推理を楽しめる。
貸しボート十三号/角川文庫
 金田一耕介ものの短編3本を収録。貸しボート内で殺されていた男女は、首を半ばまで切断された状態で放置されていた。ボートにまつわる悲劇とは。
悪魔の百唇譜/角川文庫
 推理小説。金田一耕助もの。殺された男が所持していた「百唇譜」と、それをめぐる女たちの謎。殺人動機。言っちゃいけないことではあるが…殺されて当然だこんなやつ。
黄金の指紋/角川文庫
 推理もの、というより小中学生向けの冒険ものである。金田一耕助対怪獣男爵。遺産相続にまつわる黄金の燭台をめぐる攻防戦。中学生の男の子が大活躍。
ペルシャ猫を抱く女/角川文庫
 作者初期の短篇集。後にリメイクされたものなども含まれる。推理もののみならず、乱歩風のミステリーから諷刺的小品まで、幅広い作風を楽しめる。
毒の矢/角川文庫
 金田一耕介もの。金田一の住む住宅地の住人達に、無差別に中傷の手紙が舞い込み始める。知人から相談を受けた名探偵は、手紙の配達違いによって彼の目に触れた一通の手紙に着目し、事件の手がかりを得る。短編2作で、時間軸や話の展開に少し相互作用がある。おどろおどろしさは低め。中傷や不幸の手紙が題材で、こうした陰湿さは21世紀の現代にも多少通じるところがあると思った。(2002.5.28)



吉岡平
狗王/朝日ソノラマ・ソノラマノベルズ
 在日米軍が交配と遺伝子操作で作り上げた軍用犬・イエローファングと、動物園から脱走したオオカミとの間に生まれた狼犬タチ。8歳の少女・紗奈恵と出会い、心の交流が生まれたが、より強い生き物を求める米軍の将校の謀略に、少女ともども巻き込まれてしまう。
 いろいろいろいろ突っ込みどころのある話ですが(なぜあえて日本でそんな実験をするんだとかそれは8歳児の思考から逸脱してる気がするぞとか嗅覚がいくら鋭いったってそこまでいったら超能力だろうとか読めばわかります)、作者さんが犬と狼を好きだという熱意と勢いに満ちた一冊です。(2006.12.11)



吉田直
トリニティ・ブラッド R.O.M 嘆きの星/角川スニーカー文庫
 大災厄後の遠い未来、空に赤い第二の月が輝く地球・ヨーロッパにおいて、長く影を引く吸血鬼と人類の対立。ヴァチカンに属する神父アベル・ナイトロードは、二つの勢力のせめぎあう土地・ハンガリアのイシュトヴァーンに派遣される。中世ヨーロッパの雰囲気が色濃く出ている世界で、長命種と短命種が戦うとなれば、そりゃもうヒーローの活躍が期待されますが…主人公腰が重い。というか腰を上げてるのに本気を出すまでが長い。絶体絶命でもまだぬらりひょん状態だったので、もしかしてこのまま一遍死んだりするんだろうか、なんて思っちゃいましたよ…。(01.05.11)
トリニティ・ブラッド R.A.M フロム・ジ・エンパイア/角川スニーカー文庫
 こちらはR.O.M.と対を成す短篇シリーズだそうです。登場人物が一緒で時間軸が異なります。嘆きの星で見られた地名があってちょっと嬉しかった。こちらはオムニバス形式の短篇集で4話収録、最後の一つだけ外伝の為、主役が別の人です。
 二番目の話で、我が愛(…)のトレス・イクスが真骨頂、と申しますか。「嘆きの星」の方では見事に人間味が無い人でしたが、この話でちょーっとだけ別の面が見られて感涙…。アベル神父の上司、「鉄の女」と異称されるカテリーナ・スフォルツァ(名前見た瞬間笑った。ちなみに異母兄の名は「フランチェスコ・ディ・メディチ」である…世界史の本みたい…)が人材不足を嘆いてますが、これだけ変で強い人がごろごろしてたらそっちの方が怖いですわ。
 タイトルの話「フロム・ジ・エンパイア」では、「帝国」の貴族(吸血鬼ですね)と共同戦線。謎に包まれた帝国の内情が少し明らかになり、同時にアベルの謎はもっと深まりました。出てくる女性陣がもれなく美人ぞろい。イラストは毎度のことながら、繊細かつ美麗で眼福です。(01.05.14)
トリニティ・ブラッド R.O.M 熱砂の天使/角川スニーカー文庫
 R.O.Mの第2巻。エステル嬢が表紙を飾ります。
 今回の舞台はカルタゴ。ヴァチカンから出張のカテリーナと、外交のため彼女を訪ねてきた「帝国」の貴族、短命種と長命種の間で全面戦争を勃発させようともくろむ「嘆きの星」の某団体、さらにカテリーナを失脚させようとたくらむ異母兄とその子飼の異端審問官が入り乱れ、砂漠の街で攻防戦を繰り広げます。カテリーナの従兄弟の姓がボルジアさんとおっしゃってまたちょっと笑いました…。
 長命種の吸血の習慣、日光を嫌う理由などが書かれていて妙に納得しました。長命種と短命種が互いに別のイキモノと認識されている世界ですが、今回約三名に関して、その垣根が低くなったようです。また、アベルの腰の重い理由がよくわかりました。なんかこの人もカテリーナもかわいいねえ。(01.08.01)
トリニティ・ブラッド R.A.M サイレント・ノイズ/角川スニーカー文庫
 R.A.Mの第2巻。レオン・ガルシア神父が表紙でした。ちょっと意外。ごついタイプのいい男なので嬉しいですが。
 やはり短篇集ですが今回は大体連作です。4作収録。4話めは1巻から続く外伝の後編。1話「ネバーランド」がレオン神父の出番。最強の派遣執行官の最大の敵は請求書であるという話(間違ってない)。第2話「サイレント・ノイズ」では、妖艶な美女の元派遣執行官が登場。口絵の色っぽさ、くらくら来ましたわ〜。舞台はバルセロナ。ロストテクノロジーによるテロで惨劇が起こる。しかし次の予告地の手がかりをつかんだアベルとレオン、トレスとカテリーナも含め、その阻止に全力を挙げるのが第3話「オーヴァーカウント」。舞台はローマへ。カテリーナさん、ベストオブ上司です。キリスト教世界の濃密な闇をご堪能あれ。
トリニティ・ブラッド R.O.M 夜の女皇/角川スニーカー文庫
 R.O.M「熱砂の天使」の続編。カテリーナの密使として、長命種の貴族イオンと共に真人類帝国に入国したエステルとアベル。しかし到着するやいなや、女帝暗殺計画に巻き込まれ、帝国の宰相殺害犯として追われる身となってしまう。
 「トラブルさんいらっしゃーい」って看板背負ってんじゃないでしょねアベルさん。次から次へと襲ってくる災厄にてんやわんやです。帝国潜入の主目的である女帝への謁見は果たして成功するか否か、暗殺計画は阻止できるのか―――という主眼より、他人を怒らせる天才である某氏の減らず口をいかに封じてくれるかを楽しみに読みました。帝国が舞台ならこの人が出なければ、の某美女も再登場。イオンが良い感じにガキ(失礼)で大変可愛い。(2002.06.29)
トリニティ・ブラッド R.A.M ノウ・フェイス/角川スニーカー文庫
 R.O.M3が女帝暗殺計画なら、こちらは教皇略奪計画。短編連作シリーズR.A.Mの3作目。ロスト・テクノロジーの兵器をめぐり暗雲立ち込めるブルノ。叛乱をおこした新教皇庁に拉致された教皇アレッサンドロを救うべく潜入したアベルたち一行の前に、最強の派遣執行官が敵として立ちふさがる。
 短編1作目はバレンシア公子の護衛を任じられたアベルさんの苦難。機密を抱えながら明るく軽く護衛を酷使する公子にふりまわされまくるアベルさん。強く生きてくれ。2作目からサブタイトルのノウフェイス。ノウフェイスは「no face」かと思ってたのですが、正しくは「know faith」でした。信仰を知る人。聖職者にある意味相応しい、ある意味傲慢といえる名前です。信仰のゆえに苦しんだ男の選択した道。アベルたちとの戦いは悲しみに満ちたものとなる。…にしてもどうしてこう、このシリーズの教皇庁関係者はユニークな人が多いんだろう。ノウフェイスのことじゃなくて…。(2002.9.4)
トリニティ・ブラッド R.O.M 聖女の烙印/角川スニーカー文庫
 R.O.M「夜の女皇」の続編。大任を果たして人類の勢力圏へ帰ったエステルとアベル。故郷に向かったエステルは、吸血鬼に抵抗した聖女として祭り上げられてしまう。
 なぜかどこに行っても体制側と反体制側との軋轢のど真ん中に放り出されてしまうエステル嬢。長命種を敵と見なすことももはや難しい彼女に、今回の事件は試練でした。先の長い道を、偶像としての烙印を背負って歩く覚悟を固めた姿が潔かった。しかし表紙…前髪、やっぱり見るにつけ笑える。(2003.1.9)
トリニティ・ブラッド R.A.M ジャッジメント・デイ/角川スニーカー文庫
 R.A.M「ノウ・フェイス」の続編。新教皇庁に加担したとして異端審問にかけられるカテリーナ。派遣執行官たちは救出の手立てを得るため、新教皇庁の首班の逃亡先・北国エストニアへ飛ぶ。首班の身柄の確保を目指すアベルたちの前に、異端審問官のみならず、薔薇十字騎士団までもが立ちはだかる。
 表紙がカテリーナさんで眼福です。赤がお似合いですわ。今回も一応連作形式ですが、1冊ほぼまとまっています。ワイルドであったり華麗であったり、個性豊かな派遣執行官の面々。けれどもR.A.Mでの活躍を見るにつけ、時間だけが異なるR.O.Mに登場しない人のことが気になります。誰が生き残るか事前にわかってしまうと興醒めというのはありますが、それがゆえに書かれないのか、それとも…と少々不安だったり。(2003.3.28)



吉田縁
暁を抱く聖女/角川ビーンズ文庫
 15世紀。イギリス軍との戦争において窮地にたったフランスで、神の乙女として敢然と立った少女ジャンヌ・ダルクはあまりに著名である。しかし、もしもそのジャンヌが、神の乙女などではなかったとしたら? 命の恩人の少年を探しているところを、時の権力者に利用されただけの、ただの口の悪い田舎娘だったとしたら?
 もう一人の主要登場人物であるジル・ド・レの名に聞き覚えのない人は、別の歴史の本なり小説なりで予備知識を得ておいたほうが良いかもしれない。史実とこの小説の彼のギャップにはびっくりしました。ジャンヌは威勢の良い村娘で、少年との再会だけを念じてまっしぐらに軍に身を投じます。確かに神さまに促されたからというよりは納得のいく理由かもしれないと思う。(2002.6.23)



吉村昭
大黒屋光太夫(上下)/新潮文庫
 江戸時代後期、漂流の末ロシアにたどり着き、艱難辛苦を経て日本に帰還した大黒屋光太夫の半生をたどる。
 周囲を海に囲まれながら、何故か海洋文学が少ない日本文学に対し、吉村氏は「漂流者の記録が期せずして海洋文学を形成している」旨語っている。作者が自ら渉猟した数多くの資料をもとに描かれる「記録文学」は、淡々と冷静な筆致の中に、読者を捕えてやまない迫真の人物描写があって飽きさせない。ロシアに残さざるを得なかった乗組員との別れの描写が特に胸に迫った。
羆嵐/新潮文庫
 ノンフィクション・ノベル。大正四年、わが国の史上最悪の獣害と呼ばれる三毛別羆事件が発生。北海道の奥地の山村が羆に教われ、六名もの被害者を出す。人間をあざ笑うかのように村にまで入り込み、人を食い荒らして去っていく肉食獣。熊撃ちとして名高い銀四郎が羆を追う。
 野生の中、点のような心細さで生活を営む村。そこへ現れる羆に対し、人間はあまりにも無力だった。襲いくる敵への恐怖、そして老練の漁師と知性高い羆の息詰まる攻防が鮮やかに描写されており、一気に読み進めた。
 世界遺産として登録された知床半島では、羆の子供をうっかり餌付けしてしまうツアー観光客のかたがおられるとか。出発前にぜひ一読いただきたい小説である。