若木未生
グラスハート 熱の城/集英社コバルト文庫
 グラスハートシリーズ7冊目…8冊目? 相変わらず「平穏」という言葉と縁のできないテン・ブランク。対人関係に大きな変化が発生。この作者さんのざくざくと肉をこそげ落としつつも決して骨子をあからさまにしないような文体とキャラの口調は、この作品ではとても合っていると思う(オーラバスターでは正直言ってつらいけど)。音楽という、その場で鳴っている音だけが勝負の世界を小説で見事に書き表している。若者の群像ものとしても、切実で容赦が無くてよし。とりあえずラスト、朱音ちゃんの選択が気になります。(2002.5.31)



渡瀬草一郎
空ノ鐘の響く惑星で/電撃文庫
 空に御柱と呼ばれる5本の柱が浮かび、年に一度空ノ鐘と呼ばれる音が聞こえる世界。御柱からは地水火風の力を秘めた「輝石」が産出され、それぞれを祭る神殿が管理している。土の輝石を産出するフォルナム神殿はアルセイフ王国に存在。神殿に親善特使として赴任している王子フェリオは、あるとき妙な噂を耳にする。柱の中に少女の姿が浮かび上がるというのだ。フェリオは興味を抱いて柱へと向かうが…。
 一読して思ったのが丁寧な文章だということ。風景やこの話の世界独特の事物に対しても、説明が過不足なく、特殊な比喩に走ることもなく読みやすいので、すんなり話に入れます。妾腹の第四王子で、王宮では影の薄い存在ながら、剣と師匠に恵まれてまっすぐな気性のフェリオ。幼馴染の司祭の少女ウルクと再会し、来訪者の少女リセリナと出会い、世界の謎に初めて触れるところから始まる物語で、王道のSFファンタジーになりそうです。(2005.4.11)
空ノ鐘の響く惑星で 2/電撃文庫
 柱から現れた複数の「来訪者」により、アルセイフの王と王太子が殺害された。疑惑の目を向けられながらも事態の打開に奔走するフェリオ。第二王子レージクの動きも不審で…。
 SFに関する部分はひとまず休みで、アルセイフの王宮闘争が主軸の巻。余り者の第四王子が剣をとって活躍。個性の強いキャラクターがたくさん出てきて楽しい。フェリオをめぐり、ウルクとリセリナとで三角関係が形成されそう。元のリセリナの世界はどうやら地球のようです。(2005.5.11)
空ノ鐘の響く惑星で 3/電撃文庫
 レージクにより追われる身となったフェリオ。しかし囚われた師や貴族たちを救うべく、王都に潜伏して活動する。一方、リセリナを追う来訪者たちは、神殿の国ジラーハの有力神官カシナートと接触する。
 5本の御柱を祭る神殿も勢力があり、他の神殿を牽制したり、その立場を利用して各国の裏で暗躍したりと何かと忙しそうです。人的損害の大きいアルセイフ。フェリオの存在は重さを増しそうです。(2005.5.16)
空ノ鐘の響く惑星で 4/電撃文庫
 兄との決戦に際して陣頭に立つフェリオ。傍らには来訪者の技術を駆使して戦うリセリナの姿が。隣国タートムの侵攻を知るレージクと、彼を支えるクラウスの選ぶ道とは。
 表紙が美女二人で眼福〜。戦闘シーンの多い巻ですが、散りばめられている恋愛・人間模様が楽しい。(2005.5.16)
空ノ鐘の響く惑星で 5/電撃文庫
 タートムの侵攻に備え、王宮の再編を急ぐフェリオと兄ブラドー。しかし互いに王位を拒みあい、膠着状態に。そんな中、フォルナムに残ったウルクが行方不明になったという知らせが届き、フェリオはフォルナムに急行する。
 王子二人とも野望がないというのは結構面倒なものなのね…。しかし国際間が緊迫した状況の中、さらに上乗せして、ウルクがちょっと大変なことになってしまいました。でも彼女なら自分の意思で何とかできそう、とか考えてしまうのは私だけ? 敵味方すちゃらか代表・ライナスティとカボチャが面白かった。(2005.8.31)
空ノ鐘の響く惑星で 6/電撃文庫
 ジラーハによるフォルナム神殿制圧に続きタートムの侵攻を受けるアルセイフ。かつてない危機に瀕する中、さらに西の大国ラトロアから使者が来訪。フェリオの師・ウィスタルの甥だという剣士ハーミットは、ラトロアの不穏な情勢を伝える。
 ベリエとリカルド張り倒して良いですか。名前だけ繰り返し出てきていたラトロアが、具体的な姿を見せてきました。来訪者ご一行の良心・ムスカも、この世界と元の世界の関連について考察を深めた様子。この人理系の講義やらせたら上手そうです。剣戟を交わす前の緊迫を増す、水面下の各国の攻防が興味深い。しかしこの広げた風呂敷、たたむの大変そうだなあ…。(2005.12.27)
空ノ鐘の響く惑星で 7/電撃文庫
 フォルナム神殿の御柱に異常事態が発生。まるで屍のような兵たちが尽きずにあふれ出てくる。重大な決断を下すシャジールの民・コウ司教。戦いのさなか、神殿騎士団団長にも不穏な動きが…。
 多事多端の中、御柱の謎が少し明らかになる巻。多分最後はラトロアまでいくことになるんでしょうね。(2006.1.10)
空ノ鐘の響く惑星で 8/電撃文庫
 タートム侵攻。北方民族らの協力により、アルセイフは国境地帯で善戦する。業をにやしたタートムは、シズヤ率いる暗殺者部隊を投入するが。
 これまでも繰り返し暗躍してきたシズヤ姐さんたちが本格的に戦闘参加。意外と(失礼)重要人物な感じ…。柔弱な印象だったブラドー陛下、温和ながら肝の据わった姿で参戦。良い出会いもあったようでよかった。(2006.1.12)
空ノ鐘の響く惑星で 9/電撃文庫
 タートムの侵攻を退け、アルセイフで舞踏会が催される。だがその舞踏会が敵の襲撃を受け…。
 話的にキーパーソンになりそうなキャラが登場した割に、一休みの印象のある巻。各者各様の恋愛模様に動きが。口絵の美少女3人のドレスに加え、挿絵のディアメルのメイド姿は必見だ! それにしても三角関係の行方が気になります。寄り添う美少女二人、困惑するフェリオの気持ちもよくわかるわ。(2006.1.16)
空ノ鐘の響く惑星で 10/電撃文庫
 ウルクの故郷・ジラーハへと赴いたフェリオたち一行。ウルクの姉、御柱信仰の象徴たる神姫ノエルとの思いがけない謁見が実現する。
 ノエル様素敵ですわ。さすがウルクの姉上、かっとんだ性格の方でいらっしゃいました。個人か立場かで揺れた末に、先を見据えた選択をしたウルクに好感。ウィータ神殿を襲う屍の兵と、ラトロアで行われる実験。理系の端くれとして、目の前にある疑問に突き進んでしまう学者の気持ちはちょっとわかる。(2006.3.17)
空ノ鐘の響く惑星で 11/電撃文庫
 ラトロアの議員の息子シュナイクの要請に応え、使者として赴くフェリオとウルク。死の精霊奪還とコウ司教探索の任務を担うリセリナも、別行動ながらラトロアへと向かう。
 さすがに敵の本拠地。謎の仮面の男・メビウスの野望、ラトロアの政治家の妨害工作などなど、潜入組の情勢は予断を許しません。ですがリセリナにはいろいろと吹っ切れる面があったようです。覚悟を決めた女の子たちに対して、フェリオはどう動くんでしょう。最後まで動かなかったりして…。(2006.7.27)
空ノ鐘の響く惑星で 12/電撃文庫
 ラトロアの議員たちとの会談に臨むフェリオとウルク。互いの国の誇りをかけた論戦が佳境となったとき、ラボラトリの市街を異変が襲う。死の精霊奪還を企てる神殿勢力と、己の野望を果たすべく事を急ぐメビウス。御柱と世界の謎に迫る最終巻。
 まず最大の関心事の恋愛模様について…いやもう、フェリオがいついつまでもいつまでも去就をはっきりさせないなあと思ってたら〜。これだから王族って。
 国際間の争いや間諜・訪問者たちの暗躍も、世界の危機に瀕してはとりあえず二次事項。敵方にも家族や人生の背景があって、ステレオタイプの悪役があまり見受けられず、メビウス一人でその役どころを背負って立ってしまった感があります。ラトロアとジラーハについては、お互いに「馬鹿にされない」レベルの交渉まで持って行けたようで。外交の最初の最初ですが、フェリオはこういう会議の場のほうが、戦場より存在感があるのはなぜ…。ほぼオールスターキャストとなりました最終巻、おいしいところをカボチャがかっさらって行きました。(2006.10.12)