車のいろは空のいろ
あまんきみこ/講談社文庫



 連作童話集。タクシーの運転手の松井さんが出会う、少し不思議なお客さんたちの物語である。
 初刊行が30年以上前のため、時代もまたそれだけ昔である。道端でシャボン玉遊びをする子供、帽子に閉じ込めた蝶、雪まつりのかまくらで遊びたがったキツネ、山猫の医者。松井さんは先々で出会う風変わりなお客たちと、ほんの短い、それだけに印象的な交流を持つ。その中を誰もがとてもよく知っている懐かしさがただよう。見ず知らずの人間同士が共有する閉じた空間を、微笑ましく、時になぞめいた舞台として描き出している。
 私が最初にこの本を知ったのは、シンガーソングライターの谷山浩子さんの同タイトル組曲から。童話がポプラ社から最初に上梓されたのが1968年、私は音楽に出会うより前にこちらを読んだことがあるような気がするのだが、きちんと記憶に残っていない。けれど音楽に組み込まれたセリフの温かさが好きで、社会人になってから本を買い求めた。結果入手した文庫本は1978年刊のもので、挿し絵は佐野洋子さんである。幸せな再会だった。