月光ゲーム
有栖川有栖/創元推理文庫



 推理小説。「Yの悲劇 '88」と、ミステリファンならお馴染みだろうサブタイトルが着く。有栖川氏のデビュー作で、「学生アリス」シリーズの一作目。
 江神二郎部長率いる英都大学推理小説研究会の夏合宿。偶然居合わせた他の2グループの大学生たちと共に、キャンプ生活を満喫するはずだった彼らは、突然の火山の噴火によって思いも寄らぬ事件にほうり込まれる。自然の猛威の前に退路を断たれた異常事態の中、月の光に導かれるように一人また一人と姿を消していく。連続殺人事件。探偵役とならざるを得なくなる江神のもとで、アリス(有栖川有栖・作者とは別人)が目にした、切なく交錯する想いの数々…。
 閉ざされた空間で起こった連続殺人の謎を、正攻法の推理で解き明かしたミステリである。緻密な計算と洗練された文章で、トリックより理論に重きを置いた展開になっている。火山の噴火の中で起こる凄惨な事件は、作中で繰り返し出てくる「ルナティック」というフレーズが良く似合う。だが読後感は爽やかだった。逼迫した状況下で随所にちりばめられたユーモアと、語り手のアリスのほのかな恋心、さらに事件とは別の影を負う江神というキャラクターの魅力。推理を得々としてではなく、視線を伏せて語る探偵の秘密は、以降巻を追って明らかになっていく。