冷血
トルーマン・カポーティ/新潮文庫



現実にあった殺人事件に題材を得て書かれた小説。現実の事件に忠実な内容だが、題材の取捨選択、構成の妙によって見事な心理小説になっている。
 アメリカの農村地帯で起こった一家四人の惨殺事件。穏やかで静かな村がにわかに騒然とし、隣人を見る人々の心に疑心暗鬼が襲う。だが犯人はまったく別の場所にいた。事件の捜査に当たった保安官は、あるとき犯人に偶然かかわり合い、完全と思われた犯罪が徐々に明らかになりはじめる。
 カポーティは5年の歳月をかけてこの事件を取材した。関係した殆どの人々にインタビューを行い、後に死刑になる犯人たちも刑務所に訪ね、その信頼をかちえることに成功する。その数々の証言を元に、犯人やコミュニティの人々の心理にまで深く立ち入った力作である。ことに犯人二人の描写は生々しく、「犯罪者」ではない「人間」の姿が見事に描かれている。ドキュメンタリーと一線を隔しているのは、著者の姿が作中に殆ど現れていないということだろうか。
「ノンフィクション・ノベル」という分野を不動のものにした作品。(97.02.10読了)