苦界浄土〜わが水俣病
石牟礼道子/講談社文庫



 恵みの海だった。豊かにおおらかに、人々を生命を育む海だった。先祖から受け継ぎ、子供たちへ伝えていくはずだったその海から、絶望がやってくるなどと誰が考えていただろう? 有機水銀という名の毒が漁師たちを襲い、国と企業が手をこまねいているうちに、その毒が子供たちをも侵す。水俣病。動かない手足でその口で、損なわれた尊厳をまざまざと見せ付ける人々。石牟礼氏の綴る海、漁師たちの声を代弁するそれは、失われたがゆえにか、ひたすらに豊かでいとおしい。
 水俣病問題を考える上で外せない一冊である。