スカーレット・ウィザード
茅田砂胡/中央公論新社



スカーレット・ウィザード1
「キング・オブ・パイレーツ」と呼ばれる宇宙生活者ケリーに奇妙な依頼が舞い込む。期間限定、1年間だけ契約結婚してほしいというのだ。相手は共和宇宙一の財閥の総帥、「女王」と異称されるジャスミン・クーア。体格も気性も資産も規格はずれの女性だが、縛られるのを嫌うケリーは首を縦には振らない。とうとう賭けで決着をつけることになる。それは互いに自慢の宇宙船と戦闘機を用い、「門」と呼ばれるワープポイントを駆使しての鬼ごっこだった。ケリーの船を制御する人工頭脳―――ここでは「感応頭脳」・ダイアナもまた、クレイジーと呼ばれる規格はずれの代物。ジャスミンの戦闘機「女王蜂」も、安全基準を度外視してまで速度と機能性を追及した逸品。勝利を収めたのは―――まあ見かえしを見ればわかります。かくして宇宙最強夫婦のどつき漫才の幕開け。会話が笑えて人前で読めない。(01.04.22読了)



スカーレット・ウィザード2
 途中の展開でびっくりして突っ伏して、やっぱジャスミンって女性だったんだねー、と思った私に罪はない(と思う)。言葉も行動もあまりに男前なのでたまに忘れそうになってました。でもやっぱり、それは無茶でしょう! 妊婦の癖に戦闘機に乗るなー! 前巻では奥さんに少々振り回され気味の感があったケリーですが、この巻では窮地に陥ったジャスミン救出のために離れ業を次々披露してくれました。作中ジャスミンの心情がほとんど出ないのですが、時折本音と取れる言葉が出てきて気になるところ。それにつけても会話が笑えるったらもう…。クーア財閥の内部を巡る陰謀がいくつも露になってきて次巻が楽しみ。(01.04.23読了)



スカーレット・ウィザード3
 クーア財閥の内紛、ケリーの宇宙散歩、ジャスミンの出産、美形アレンジャーと宇宙海賊登場。毎度そうですが怒涛の展開。冒頭の財閥重鎮の描写、主役二人が桁外れてるせいかと思いますが、どうにも敵が小物でせこく見えて仕方がない。でもそうと割り切って、「必ず生還する」と言う前提条件のもとで読めるバイオレンスというのは意外に小気味良いです。著者ご本人はハーレクインロマンスとおっしゃるが、現段階でそう読むのは難しい…ですが途中、ケリーがとある星からお土産を持ってかえるくだりは、ジャスミンがかわいらしく思えるくらい良いムードでしたな。あと「触らぬ神にたたりなし」という格言を、お馬鹿をやった田舎海賊に贈ると共に合掌。すでに命運は見えた。ケリーと出会う前のダイアナの短編を巻末に収録。(01.04.23読了)



スカーレット・ウィザード4
 怒髪天のケリーが怖い、というか人間離れしすぎですあなた。なんで挽肉にならんのよ。しかし前半部分の敵さんは、ほんとーに馬鹿中の馬鹿でした。あれはケリーじゃなくたって逆鱗に触れて当然ですね。息子が生まれたばかりのマイホーム(宇宙船だけど)に旦那が帰還、ここにいたってようやく、ちょっとばかり夫婦っぽい会話が成立した…と思ったら、ジャスミン鈍いし。苦労するねケリー。けれどやっぱりと言いましょうか、平和は長く続かず。殺人と誘拐、それも大掛かりな事故つきで。怒髪天リターンズのお父さんお母さん…すでに敵の末路も見えたな…。(01.04.24読了)



スカーレット・ウィザード5
 最終巻。あーなるほど、ほんとに乙女心だったのか。最後の50ページで大きなどんでん返しが来て、読み終わってしばし考え込んでしまいました。そこまでは前巻から引き続いたどたばた劇で、往年の銀河鉄道999やキャプテンハーロックを思い出しつつ読みました。夫婦そろって人脈を駆使しまくっての要塞攻防戦。ケリーが奥さんを口説く図なんてのが見られるとは…。個人的にはラストへの流れが唐突に感じられたのですが、話の切りどころとしてはこのあたりでよかったと思います。最後にケリーの選んだ道が意外でした。ダイアナの言葉があったので、私は未来に関しては楽観してます。百万の味方よりダイアナのが心強いと思う。(01.04.24読了)



スカーレット・ウィザード 外伝
 5巻の「その後」が書かれる、ある意味で6巻、ある意味で次回作の0巻とも呼べる一冊。デルフィニア戦記ファンの人にはたまらない、彼の作品の重要人物が堂々と登場しています。若いけれども。ジャスミンとケリーのその後に着いては、とにかくお互いに目一杯、実は相手のことを思いあっていたのにとことんすれ違っていた―――というのがわかって、それと戦いつつかっこよく年を重ねていくケリーの姿が爽快でした。未来へ前へ、自分らしさを失わないでいられた彼が、再会したジャスミンになんと言葉をかけるのか、想像すると楽しい。(01.11.26読了)