百億の昼と千億の夜
光瀬龍/ハヤカワ文庫



 星々の間に満ちる闇のうちから塵が集まり、徐々に新たな星を形作る。固い外殻を持ったそのうちの一つに水が生まれ、やがて命が育まれる。当たり前のように偶然に始まった地球の歴史。小説の冒頭では、その様子が壮大に語られる。その中で極端に短い歴史しか持たないはずの知的生命体が、宇宙の創世から破滅、滅亡へのうねりに関わりを持っていく。
 はじめに滅んだのはアトランティス。ひいてエルサレムではナザレのイエスが神を騙り、仏たちの住まう兜率天では銀河が崩壊し冷えていくばかり。「この世の外にある」という滅亡の原因をたどるために、アトランティスの名を世に残したプラトン、釈迦国の太子だったシッタータ、そして闘神阿修羅王は、とある意志から、また自身の巡り合わせから、長い旅へと身を投じる。世界の流転はすべて滅びへと向かう。それを食い止める術を模索する、それは数億の時間と空間を越えた、いつ果てるとも知れぬ道行きだった。
 憶という数によって表される時間も空間も私にはなじまない。この小説の中でキーとなる存在に弥勒菩薩がいるが、この仏は56億7千万年後に現れて地上を救うという仏典がある。それを知ったとき、私は鼻で笑ってしまったものだ。もうそのころには太陽も地球もないだろうに、人類が生き残っているものか、と。けれどこの小説の登場人物たちは、憶という単位ですら測りきれない宇宙を旅することになる。その途上、所々に残される「シ」という滅びの存在。その広さと空虚に絡め取られながら、最後の土地にいたるとき、やっとこの旅の出発点がどこにあったのかが示されるのだ。
 読み終わったときは頭が飽和状態で、2-3日は夜空を見上げることが怖かった。この作品宇宙の果てのない広さには圧倒されるばかりである。