野戦の指揮官 中坊公平
NHK「住専」プロジェクト/NHK出版



 中坊公平氏は元日弁連会長、現在は住専管理機構の社長を務めている弁護士である。かつて森永砒素ミルク事件、豊田商事事件などに関わって敏腕を振るった。
 氏が過去に扱った事件で印象深いのは豊田商事の事件で、金取引に関する詐欺事件である。セールスの言葉の親切に孤独を紛らわせていた老人が多く被害者に含まれていた。行政には早くからその詐欺商法が知られていたが対応が遅れたため、事件直前の最後の1年がもっとも被害額の多い年だった。永野会長の殺害とともに事件の多くが闇につつまれ、回収できた資金は被害額の5パーセントほど。しかしはじめは1%取り戻せれば良いほうとまでいわれていたのである。氏は被害金を戻すために奔走し、取り引きのあった大手企業の追求、隠し会社の摘発もし、とうとう税務署から豊田商事の納めた税金をとりかえすことまでした。
 住専の後始末会社の社長になってからも辣腕ぶりは変わらない。政府の査定を正直にし直し、事件以後の地下低下や土地屋の妨害からの2次損失を出さないと公約した。しかしはじめから2次損失が出るものとして見積もられていた債権を回収するのは容易なことではない。担保不動産を選挙している暴力団の妨害、担保に担保としての価値が無い、半年も経ってから見込み取り引きの損失がでるなどなどの悪条件が重なる。さらに1次損失で回収不能とされた相手から回収できた場合、国にそれを納めなくてはならないという法律も改正の要がある。会社自体も、今のままでは債権回収終了と同時に消滅することになっているため、社員の志気も問題となる。
 中坊氏はすべての問題にあらゆる可能性を模索している。昨年7月、「担保物権の処分」「借り手の隠し資産摘発と経営責任追求」に続き「関与者責任の追及」として賠償請求訴訟が起こされた。今は月に一度、どれだけ債権を回収できたかという記者会見の席を設けている。大蔵省からは注意を受けたらしいが意に介さない。すでに70歳を迎えた中坊氏だが、「公的な権限を持てば、私のようなものでも悪に対して、懐に入ってたった一人でも喧嘩ができる」という姿は頼もしい。しかしそれを「野戦」といわなくてはならないあたり、日本経済はいばらの道である。
 現在の住専問題について知りたい人にも、特にわかりやすいのでおすすめ。