墓標なき八万の死者
角田房子/中公文庫



 ドキュメンタリー。太平洋戦争敗戦時の満州開拓団の壊滅を描く。
 昭和20年8月15日、太平洋戦争は日本の降伏をもって終結する。しかし満州にわたっていた開拓団の戦争は、同8月9日のソ連参戦から始まった。
 人々を守るべき関東軍(満州に駐留していた日本軍)は真っ先に逃げだした。男手を兵に取られていた開拓団員と家族たちは、国を信じて丹精していた田畑を捨て、頼むものもなく広大な中国大陸を逃げ惑った。動けなくなった子どもと老人を山中に見捨てた一団、村を守って子どもまでが戦い全滅した村、食料に貧し子どもを売り飛ばした母親、捕虜となって飢え死んだ父親。誰もが生きることだけに貪欲になり、運の良いものだけが生き残った。
 開拓団の死者は表題通り8万人。これはソ連参戦から日本への帰還がかなうまで、約4年間の大陸での日本人死者・行方不明者の6割にあたる。そしてようやく帰った故郷の国は、何もかも失って帰った彼らに救いの手をさしのべようとはしなかった。
 奇麗事では済まない極限の状況での人々の選択が重い。