死角
柳田邦男/講談社文庫



 著者の柳田氏は航空機事故に関して造詣が深い。この本の中でも、1985年の日航ジャンボ機墜落事故について雑誌に掲載されたものに一章が割かれている。以下章が進むに連れ、原発事故・都市災害・船舶事故などなどに筆が及んでいく。
 一つの事故から得られる事象、再発を防ぐために必要なありとあらゆる可能性を模索すべく、作者がまず注目するのは「死角」。巨大システムを運用する上で安全性を確保するには、ひとたびエラーが起こってもどこかでそれを食い止める二重三重の防護壁が必要となる。「死角」をカバーし、一人の人間のミスくらいでは揺るがないシステムの構築には、この「フェイル・セーフ」という機構がどうしても必要となる。個人のミス、会社の体勢の揺らぎ―――ひとたび起こった事故の原因を一箇所に帰すことは簡単だ。だがそれだけでは再発は防げない。
 災害は起こる。事故も起こる。どんなに注意しても、人間が作って動かす機構であるならばゼロにはなるまい。けれどその及ぼす影響を最小限にする努力は日々必要である。この本の中で、著者は繰り返し「死角」を点検する重要性に触れている。
 出版は1988年。ここに書かれている内容を読んで、10年以上を経た現在が進歩していると思う人は、おそらくいないのではないかと思う。