墜落の夏
吉岡忍/新潮文庫



 講談社ノンフィクション賞受賞作。
 1985年8月12日、乗員乗客524人を乗せた日航ジャンボ機が御巣鷹山に墜落した。520名という、飛行機1機の事故としては空前の死者を出したこの事故は、13年を経た今でも折りに触れ話題としてよみがえる。
 この本では、事故機の詳細な状況、航空会社の最初の対応にはじまり、乗客たち個々の人生、救助・遺体収容に携わった人々の労苦、遺族たちの嘆きと保険の対応、最後に事故が残した教訓と順を追ってつづっている。フライト・レコーダー、ボイスレコーダー、管制官とのやりとりと生存者の証言を突き合わせて事故の詳しい状況を探ろうとする第2章は圧巻だが、この本では特に乗客と残された家族たちのその後にページの半分を割いている。航空機事故の無残な遺体の検視、異常な状況のなかで身体の部分だけでも戻れと祈る遺族たち。そして補償、命に対する値段をつけなくてはならない作業で、日航の職員たちも心身をすり減らして苦慮する。そのすべての原因を作った飛行機事故、巨大システムの運用と限界が、最終章で探られる。
 この空前の事故を絶後とするため、今もさまざまな安全対策が行われている。日本の航空会社の墜落事故は、幸いにもこの後一度も起こっていない。だが安全への努力は、ほんのわずかでも怠ってはならない。飛行機に限らず、人間の手を離れて動き出すこともあり得る巨大なシステムに囲まれている現在、システムに携わるものが忘れてはならない教訓だと言えよう。