天然素材でいこう。
麻生みこと/白泉社花とゆめコミックス



 少女漫画でラブコメ。
 亀岡二美嬢は映画の翻訳家を目指す少女。容姿も英語をのぞく成績も運動神経も平均的。
 だが彼女の二人の親友は大変ゴージャスな方たちだ。まず一人、北大路理々子嬢は学年で一二を争う才女かつ美女。リアリストで賢い優等生。今一人、嵐山美晴嬢は県大会上位入賞のスプリンターかつこれまた美女。下級生の女の子にもてもての野性味あふれる体育会系。
 二美嬢はこんな二人を大事にしつつされつつも左右されることなく、ひたすら天然素材である。二大女帝として学校に君臨する二人が認める数少ない男・高雄勇と付き合い始めた彼女。ひたすら二美ちゃん至上主義の三千院真、勇ちゃん至上主義の伏見千津嬢、大変測りがたい性格をしたおフランスクオーターの一乗寺春彦もからみながら、どこまでもハイパーマイペースに、各自が自分の足元をきちんと固めていく物語。脇役がみんな主役クラスの個性の持ち主なので、連作短篇集の趣があります。
 二美嬢には他に類を見ない特長が一つ。人に左右されず、自分の目でものを見るという、とても難しいことを難なくこなしてしまうこと。理々子嬢も美晴嬢も、もちろん高雄氏も三千院も、彼女のそんな部分にノックアウトされた人々。
 第一話は読みきりで、二美嬢と高雄氏はもうそこでまとまってしまってます。どちらもイイコで性格的にまじめなカップルですが、取り巻く人々が一筋縄では行かないため、もちろん波乱が発生。
 二見嬢にベタぼれの三千院、その三千院に振り回される理々子嬢―――三千院は確信犯的な遊び人かつ天然の甘え上手で、理々子嬢は放っておくことができず、三千院はそんな彼女を適当な重力で離そうとしないまま、しかし振り返ることはない。まるで天然カップルの陰の部分を補うかのような二人の存在は、普通ならどろどろしたものになりがちなのでしょうが、どちらも自分のスタイルを貫く姿勢を曲げないがために、最後には男前勝負のようになって行きました。実は主人公カップルそっちのけでこちらの行く末が心配でした…。
 美晴嬢は美晴嬢で、二美嬢の兄の一郎氏と知り合って変わります。といってもパワフルで男前なところは微塵も変わりませんでしたが。こちらのカップルは障害が少ないながら、美晴嬢の性格(と、ある種複雑な成長過程)によりトラブルが発生。
 さらに主人公カップルも、高雄氏と二美嬢が共に「懐に入れている」美少女・千津嬢の存在が時折暗雲をもたらします。しかし彼女もまた男前。彼女は二大女帝のあとを継いで学校に君臨する女王様になるに違いない。恋愛模様に多大に影響しつつ、人生模様に首をつっこむナルさん(一乗寺氏の通称。趣味が「自分」というナルシストぶりより)がまた話をかき回します。思いもよらない場所から光を当てて、隠していた筈のものを明るい場所にさらけ出してしまう二美嬢の天然さ。対して明るい一方だった場所に、微妙な陰影を与えるナルさんのエキセントリックさ。この絡みが絶妙。誰しも「イイコ」とか「天然」とか、単一なものでは語れないというのを、様々な手段であばき出して行きます。
 けれどそれでも、登場人物全て、それぞれに自分を持っていることに変わりはなく。
 「太陽の光ってのは、全ての色をこばむから白いんじゃなくて、内包してるから白いんだったなって(作中某氏談)」
 ―――悪感情や嫉妬や羨望も併せ呑んで、天然。自分。お見事。
 麻生みことさんは女の子の描き方が秀逸。作中サブタイトルともなったキーワード、「男前!」がみんな似合うのです。会話のテンポの良さ、小気味よさ、コマーシャルフィルムやグラビアのようにスタイリッシュな画面もおすすめです。
 花とゆめコミックス全10巻完結。