辻盗り
河村恵利/秋田書店



 中世から近代にかけての歴史もの短編集。
 私は河村さんの描かれるお話が好きで、商業誌系の既刊は軒並み持っているし、同人誌にも手を出しています。描かれている時代は古代から近代まで、人物も様々で幅広い。が、人に薦めるとなるとどう言えばよいか悩みます。
 戦国の著名な武将、頭脳戦を預かる知恵袋たち、あるいは後宮文化を彩る才女や名だたる美姫たち―――現実でも創作の世界でも、他と競い合いまた戦う姿が脳裏に浮かびます。しかし河村さんの世界では、どんな歴史絵巻であっても、登場人物は常に人間らしい人間です。世をすねて人をだます盗賊であってもそれは同じ。どこか欠けていたり、お人よしで不器用であったり、誰かを真摯に思っていたり。武家や公家の建前を前面に押し出した作品では、なかなかお目にかかれない人々―――これは多分、少女漫画ならではの手法なのでしょう。
 この巻は時代も場所も、登場人物もばらばらな短編が5つ収められています。各話の登場人物の中で実在したのは畠山重忠のみというあたり、その地味さ加減が伺えます。ざっと並べてみると、
 
 「辻盗り」―――平安期、人目を忍ぶ恋人たちの文使いをしていた女房と家人の話。
 「梁の上」―――平安期、雨宿りの小屋に行き合わせた面々が、一つの仏像を競り合う話。
 「袖の淵」―――若き日の畠山重忠と太夫の悲恋。
 「相生」―――江戸時代の上方、一枚の絵を探す老婦人と、それを手助けしようとする町娘の話。
 「いつわり誓文」―――江戸時代の京、幼馴染の娘を探す武家と、その手がかりを持っていた呉服屋の主人の話。
 
 個人的に後の二つのお話が大好き。ことに「いつわり誓文」、この話のためにこの感想文を書こうと思いました。社会や人の手からこぼれてしまった人々、彼らに向けられる視線と感情が、とても切なく優しいのです。
 時代ロマンシリーズ、巻を重ねて19巻目。絶対ひそかなファンが多いはずと思っております。