緋の稜線
佐伯かよの/秋田書店文庫



 レディースコミック。一人の女性の人生を、昭和初期から昭和が終わるその日までの時代とからめて描いた作品。
 主人公・瞳子は、比較的リベラルな思想の大学教授の娘として生まれた。女が軽視されている社会、軍が専横している時代に疑問を持ちながらも、事情により10代のうちに嫁ぐ。婚家は商家だったが、夫・各務省吾の出征中に東京大空襲の惨禍にあい、彼女の手によるゼロからの再スタートを余儀なくされる。
 終戦、新事業、夫の復員、そして事業の拡大。波乱に富んだ人生を経験しながら、瞳子はやがて辣腕の実業家として認められていく。その傍らにあって時に彼女を悩ませながらも、互いに支えあっていく夫と家族たち。その絆を得て彼女は人生を歩んでいく。
 …と書くと抽象的であっさりしてしまうが、とにかく話のスケールは大きい。何せ連載開始から終了まで10年近く。大河ドラマである。この間瞳子の妊娠と出産、子育てに関わる悲喜こもごもと同時進行で、小さな小売店から百貨店への事業の成功、瞳子の姉・寿々子の結婚や寿々子の引き取った孤児たちとの交流、省吾の妹・和音の女優としての成功なども描かれ、話は大きく広がっていく。その中であくまで模索されるのは家族の絆である。話の後半は瞳子と寿々子の子供たちがメインとなるが、それでも話の中で瞳子の存在感は強く、子供たちの目を通して彼女の力が浮き彫りになる。
 一人の人間の周囲にこんなにパワーにあふれた美男美女ばっかり集まっててどうする、などと読み始めた当初は思っていたのだが、そのあたりは読んでいるうちに気にならなくなった。とにかく登場人物がみんなよく悩む。迷って間違えて自分に酔って泣く。だがひとしきり泣いた後は必ず大地を踏みしめて立ち直る。その雑草のようなたくましさは読んでいて小気味良い。一貫して語られる昭和の世相との対比が鮮やかだ。
 文庫本16巻完結。時間と根性があったらぜひ。