少年は荒野をめざす
吉野朔実/集英社



 マンガには独自の文法がある。文字と絵、二つの要素をして物語を語らしめるという文法が。このうち絵に重きを置いたもの、また文字に頼るものなど作者によって用法はさまざまだ。けれど時折、文字と絵の見事な調和、「マンガの文法でなくては描けないだろう作品」というものに出くわすことがある。「少年は荒野をめざす」は私にとってそうした作品の一つだ。
 主人公の少女が、自分の中で子供の頃になくした「少年」を、小説を媒体にして形にするところからものがたりがはじまる。この少女は受験を意識する学年の中学生だが、どこか「一般」とずれた部分を持っている。そして自分に対する理想がある。現実と折り合いをつけつつ見学に行った高校で、その理想を体現したかのような少年に出会う。そして彼を知るにつけ思う。「あの人になりたい」と。だが「なりたい」と思った少年もまた、彼女の中に自分を見つけていた。
 正直なところ、このマンガをどう文字で語っても追いつかないような気がする。「5才の野原に少年をひとりおきざりにしてきた」という冒頭の小説をはじめ、言葉も各所で印象的で、文字をなくして成り立たない作品であるのだが、それ以上に絵が雄弁なのだ。夜桜、落ちる椿の花弁、夏の草原の熱気すら絵に表れて話を彩る。キャラクターたちの背後に広がる空間までが何かを語っている。
 そして人それぞれの中の変化(それを成長という人もいるかもしれないが)を描き出すのだ。