中島みゆき 夜会―――ウィンター・ガーデン

00/11/27・00/12/04 シアターコクーン Open19:30 Start20:00 End22:30
出演:中島みゆき、谷山浩子、佐野登 他




 約1ヶ月の公演機関がありましたが、そのうち上の2日間に行って来ました。詳細をメモしていませんでしたので、感想のみ。

 谷山さんが夜会に出ると聞いて。最初に思ったのは、「できるのか谷山さん!?」だったことを今ここに正直に白状します。けれども舞台を見て、なるほど谷山さんプロだわ、と認識を改めました。いつものコンサートで覗かせてくれる、少女の心を失わない女性から、恋と人生にだまされる人物へと見事な変身。詩の朗読、歌、演技に八面六臂です。

 北国の原野にたたずむ一軒家に、一人の女が引っ越してくる。彼女はそこを新天地と思って希望を込めてやってくるが、実は原野商法にひっかかったのだった。半分が火にさらされて焼けた柏の木がたたずみ、窓からの展望には民家の一つとてない。しかし明るい窓、まだ日の高く上る季節、そして後からやってくる人を夢見て、女はだまされたことに気づかない。ただその家には、契約の時には言及されていなかったオプションが一つついていた。主のいない犬。彼女と犬の奇妙な共同生活が始まる。季節が移ろい、窓の外の風景も秋の彩りから冬の一色へと変わっていく。犬も女も、自分の孤独を想起せずにいられない。この家を手に入れるために人々を欺いた女には、もはや帰る場所も無い。そして最後の希望も、一本の電話が断ち切る。それをずっと見つめ、かつてこの家で起こった惨劇と共に見守る柏の木。犬の記憶の底に眠る人とは…?

 あらすじだけ見ていると谷山さんが主役のようです。ここまで出ずっぱりだと思わなかったので驚きました。もしかしてみゆきさんより長く舞台上にいたかもしれません。舞台を見て、どうしてみゆきさんが谷山さんを出演者に選んだのかとてもよくわかった気がします。うち捨てられた原野の一軒家で、誰からも忘れられていく女。最後に人生の半ば以上を放り出してしまう選択をするのですが、これが谷山さんのお声にぴったりだったのです。淡々と続く詩の朗読、人生を少しずつ語りながら、なおも美しく、それでいて諦めにも似た色彩を帯びる声。みゆきさん演じる犬が、随所で孤独と闘っていく様と対照的でした。さらに「柏の木」の役の能役者さん、影のように舞台にたちながら、声といい立ち姿といいものすごい存在感です。すばらしかった。

 そしてその全てを向こうに回し、歌一つで立つみゆきさん。みゆきさんの歌を生で聴くのは今回が初めてでしたが、会場全てを揺るがすような、あの体のどこから出ているのか疑問に思うほどの声に、全身を打たれて動けなくなりました。谷山さんの澄んだ声と絡むとまたひとしお際立つ印象です。舞台装置の白の鮮烈と相まって、忘れられない夜になりました。




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