ダニエル・キイス

二十四人のビリー・ミリガン(上)(下)/早川書房
 感想はこちら。



喜多みどり

龍の皇女 ザ・ラスティ・ワールド/角川ビーンズ文庫
 シオロ王国の王女クレシャナは龍とともに戦う戦士であり、左眼に秘宝「予言の書」を宿していた。彼女の婚約者ガリオンが、ある日その秘宝を奪いさる。彼を追って別世界へと飛ばされたクレシャナは奴隷として売られ、風変わりな軍人ウルベルフに買い取られることとなった。
 クレシャナが色々と規格外の女性で良い感じ。イラストのイメージが本当にぴったりです。世界を股にかけた追跡劇で、愛憎渦巻いていながらも、クレシャナとウルベルフのずれた認識で色々楽しませてくれました。中途ではいるガリオンの独白が唐突に感じられましたが、最後までそれぞれ潔くて良かった。個人的にウルベルフのちょっととぼけた誠実さがものすごくものすごくツボでした。(2004.5.21)



木本正次

黒部の太陽/信濃毎日新聞社
 日本史上最大屈指の難工事と呼ばれた黒部第四ダム建設のドキュメンタリー・ノベル。工事にいたるまでの中部電力首脳陣の思い、現場の人々の熱意と努力を、最大の難関となったトンネル掘削工事指揮者の視点を通じてつづった本。黒部に旅行したとき現地で購入した。工事で亡くなった人々の慰霊碑、せき止められた巨大なダム湖、勢い良く流れ落ちていく水をじかに見てから読むと、つくづくと工事の偉大さが実感される。



京極夏彦

絡新婦の理/講談社新書
 京極堂シリーズ。オールスター・キャストの観有り。相互に何の関係も無いように見えるいくつもの事件が、人里離れた女学院とその理事をつとめる旧家を中心に、京極堂の手によって蜘蛛の糸を手繰るように収束する様は見事。
塗仏の宴 宴の支度/講談社新書
 今までのシリーズ登場キャラクターのその後がわかる。だが謎が謎を呼び事件が起こりさあこれからというところで某登場人物が鬱と奈落のどん底に落ち、この本は終わり。次を待つのが長いわ〜。
塗仏の宴 宴の始末/講談社新書
 ようやく出ましたよ〜。「宴の支度」から延々と続く、一見関係のない多事多端が、ここにきて一気に収束。ただ一つ私が気になるのは、××氏の行く末だ。壊れる前で踏みとどまってくれていることを祈る。
百鬼夜行 陰/講談社新書
 ミステリー。京極堂シリーズの短編集。姑獲鳥から塗仏までの事件や登場人物たちのサイドストーリー。だんだん自分の頭の中が信用できなくなっていく楽しみ。
百器徒然袋―――雨/講談社新書
 ミステリー。一応京極堂シリーズだが主役は怪探偵の榎木津なのでかなり破天荒。一応オールスターキャスト。語り手の新キャラクターが、榎木津筆頭に個性の強すぎる面々に引きずり回される様が笑えた。爆笑する京極堂という、縁起が良いのか悪いのかわからないものが拝める。
巷説百物語/角川書店
 江戸時代。闇の虜囚として世に棲む人々を、小股くぐりの又市一行が密やかに裁く。事件を解決するわけではなく、解決が困難または不可能な事態に「結末」を迎えさせるための暗躍。封建制度の時代、現代よりも謎が身近にあり、妖怪や幻術が日常に息づいている時代ならではの目くらましの手際があざやか。時代劇、しかも必殺仕事人系が好きな人なら必読の一冊。
続巷説百物語/角川書店
 上記「巷説百物語」の続編。今回は登場人物の過去を明かしつつ、語り手の山岡百介の周囲を見え隠れする「七人みさき」へと向けて物語が集約する。闇の世界で生きる又市が、その人脈を総動員しての大仕掛け。短篇集でもあり、各話にきちんと落としどころがある。最後の「老人火」はシリーズ最後の話でもあり、読んでいて少々切なかった。



金蓮花

玄琴打鈴/集英社コバルト文庫
 仙境の半仙・李月流(り・うぉるりゅ)が営む茶館「銀葉亭」。そこを訪れる客達がつれづれに語る打ち明け話、「銀葉亭茶話」シリーズ最新刊。待ってました〜。
 今回の客もひときわ風変わりである。彼女の持ち込んだ大荷物の中身は、なんと若い男の遺体だった。「魂が離れた」彼の身の上が夜半の茶館で語られる。それは玄琴(ひょんぐむ)の奏でる、あるいさかいと愛の物語だった。
 作者さんは在日朝鮮人の方。とても美しく丁寧な文体で、仙境の秘密めいた静けさを描き出している。過去の朝鮮の風習なども交えて、あでやかでどこか物寂しい恋愛譚を堪能できる。
銀朱の花/集英社コバルト文庫
 左右色違いの瞳と額の痣を叔父夫婦や村人たちから疎んじられ、両親亡き後過酷な生活を強いられていた少女エンジュ。痩せてつらい思いをしながらも耐えていた彼女のもとに、ある日国王からの使いという騎士が訪れる。彼女が疎まれる原因となっていた異相こそは、国を救う「聖なる乙女」の印だと言うのだ。それは人柱のことだと思い込んで都に向かうエンジュだが、実はカウル王の妃になると定められていて…。
 シンデレラを思い起こさせるストーリー。でもシンデレラと違うのは、エンジュがなかなか自分の立場を納得せず、王に対する自分のありかたについて疑問を持ち続けていくところでしょうか。カウルがエンジュを妃として必要とした背景などが面白いのですが、いまいちカウルの心情が追いづらい上、主人公を置き去りにして状況だけ進んでいく節があるので、ちょっと主題が散漫かという印象があります。文章はさすがにこの作者さんだけあって、さらっと読めつつも美しい。(2003.12.25)
空の青 森の緑 銀朱の花2/集英社コバルト文庫
 カウルとのすれ違いから王宮を離れていたエンジュだが、4年を経て彼の元に戻ることを決意する。しかし不在の間に国王夫妻の不仲が噂となり、隣国からその間隙をつくべく妾妃候補の姫が送られて来た。
 今度はハーレクィンテイストでしょうか。エンジュが王妃としてふさわしく成長して行くまでをつづります。外交や国の背景がエンジュから切り離されていないので、前よりは違和感なく読めました。「聖なる乙女」についてのフォローも追加。それにしても終了の後の外交が気になったり…。(2004.3.10)