青木祐子

恋のドレスとつぼみの淑女/集英社コバルト文庫
 19世紀イギリス。ロンドン郊外に小さな店舗を構える仕立て屋「薔薇色」の店主クリスは弱冠16歳の少女。彼女の仕立てるドレスは恋をかなえると大評判。噂を聞きつけ、公爵家の嫡子シャーロックが店を訪れる。足の悪い妹・フローレンスのためにドレスを仕立ててほしいというのだが…。ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ第1巻。
 地味な印象のクリスが生み出す華やかなドレス。見た目で彼女を判断していたシャーロックが、会うたびに彼女に惹かれていく様がよくわかります。フローレンスをめぐる事件を覆う影に、ドレスの腕を支えに立ち向かうクリスがけなげでかわいい。ヴィクトリア朝とドレスが好きな方にはおすすめです。引っ込み思案の店主を支え、売り子として店を切り盛りするパメラの存在も華やか。(2006.7.28)
恋のドレスは開幕のベルを鳴らして/集英社コバルト文庫
 ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ第2巻。今度の注文は、次の舞台に再起を誓う女優・マーガレットの舞台衣装。彼女の激しい感情の起伏、取り巻く人々の人間模様に戸惑うクリスだったが…。
 これ実際の舞台を見てみたいです。昔ながらのイギリスの劇場で見たら映えるだろうな〜。今回はいろいろと手をこまねいていた感のある公爵令息。パメラと一緒にいじめてみたいかも。(2006.7.29)
恋のドレスと薔薇のデビュタント/集英社コバルト文庫
 ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ第3巻。「薔薇色」の噂を聞きつけてやって来た貴族の令嬢ファニー。彼女の初恋の相手とは?
 よくある「借金のかたに結婚する令嬢」のパターンかと思いきや、事件は意外な方向へ。一途にがんばったゲストお二人に好印象です。主人公二人、今回は少々進展がありましたが、壁はまだまだ高いですわね…。まずシャーロックの意識改革から。(2006.7.30)
カントリー・ハウスは恋のドレスで/集英社コバルト文庫
 ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ第4巻。モアティエ公爵じきじきのお声がかりで、令嬢のドレスを作ることになったクリス。公爵家のカントリー・ハウスに赴くが、当の令嬢はドレスなど不要と言い張る。
 シャーロックは各方面から婿がねとして注目されているようで大変です。お互いに無意識に振り回しあっている二人、今回のゲスト・アップル嬢とその父上に自身の姿を投影して、思うところがあった様子。闇のドレス側の某彼女、この出没ぶりったら、分身の術が使える気がするわ…。それにしてもリルちゃんが出てくるとなごむ。(2006.10.4)



秋田禎信

我が呼び声に答えよ獣/角川文庫
 「魔術師オーフェンはぐれ旅」シリーズ最初の巻。アニメでやっているので読んでみた。ヒロイックファンタジー…ってことで良いのだろうか? 腕は良いのに何故かモグリの魔術師をしているオーフェンの波乱の旅を描く。



朝香祥

キターブ・アルサール 赫い沙原/角川ビーンズ文庫
 新興国ディラムの急襲を受け、窮地に陥った砂漠のオアシス国家エラーン。領主の末子アルセスは、忠実な従者セレムと共に、砂漠の風の民の元へと逃れる。セレムの出身部族の風の民とエラーンの領主とは、長年に渡り誓約で結ばれてきた。内容を知らぬまま誓約の実行を求めるアルセス。しかしそれは救国の力とはならぬ、アルセスの保護と養育を行うというものだった。
 自分の幼さ未熟さに歯噛みしつつも、砂漠で耐えるアルセスと、影になりながら彼を支えるセレム。砂漠で彼らの師となるカウスのもとで、風の民の若者ジェナーに触発されつつ学ぶアルセスは、一途なまでに地道に力を蓄えていきます。生死不明のアルセスの兄ファラン、ディラムの王の息子サイード、ディラムに囚われたアルセスの姉・アイシアとの密やかな心の交流も交え、壮大な叙事詩となりそうな予感。(2002.3.8)
キターブ・アルサール 蒼い湖水/角川ビーンズ文庫
 エラーンを国家たらしめているオアシスの水位が下がり始めた。ディラム領主の正妻の長男は統治を任されるが政治に興味はなく、ディラムの背後にある東の大国カダ・シエナがじわじわと主権を蝕み始める。ディラム領主の三男サイードはこの危機に気づくが、正妻と兄達に疎まれて行動もままならない。一方アルセスは、オアシスの変異をとどめ、また囚われの姉アイシアを救うために行動を開始する。
 前の巻の感想で「壮大な叙事詩」と書きましたが、本来は2巻で完結の予定だったとのこと(伸びましたが)。焦点をアルセス一人の成長譚に置くとするなら、これくらいの長さでちょうどでしょうか。周辺国家を巻き込めばいくらでも長くなりそうなので、ちょっと残念な気もします。敵方のキーパーソンとなるサイードの動向も目が離せません。最終巻に期待。(2002.05.15)
キターブ・アルサール 皓い道途/角川ビーンズ文庫
 オアシスの復活と奪還を目指し、アルセスたち風の民の作戦が開始される。囚われの身となったファランの密かな謀略と、奴隷に落とされ、見かけ上全ての自由を奪われたサイードの暗躍が交錯。逆にサイードの妹・サルジュはエラーン側に囚われることとなるが。
 3冊表紙を並べると赤・青・白と、別種の色男が揃って壮観な最終巻。ビーンズ文庫最厚記録を更新されたそうです。遠慮なさらず某京極氏とかくらいのレベルの厚さにしてしまわれても良かったのに。アルセスはどこか頼りなげな印象が残っていますが、それでも自分の立場に耐えうるだけの成長を遂げました。ここまで引っ張ったサイードとアイシアの件、終わってもまだ引っ張りますか…先が気になるなる。でももう先はないのね。(2003.05.12)
フェイクスイーパー/集英社コバルト文庫
 (Yahoo!ブックスよりそのまま転載)"霊"の存在が認知され、除霊を請け負う職業がポピュラーになった昨今。だが、弱冠十八歳にして高原御祓事務所を経営する高原透は、除祓能力を持たない"エセ御祓師"である。悪徳御祓師を摘発するために、国の監査が入ることになり、透たちは大アセリ。そこに、透の腹違いの弟と名乗る少年、矢野真悟がやってきた。透は除霊ができる真悟を雇うことに…!?近未来ゴーストコメディ。
 近未来というよりはパラレル現代。で、途中それなりに笑えるところはありますが、コメディ…というよりシリアスだと思います。透はとても真面目でお人よし、大学と二足わらじで大忙しの所長。対する真悟は口から先に生まれたような軽さで事務所に居場所を確保。兄弟とはいえ別れ別れに成長し、互いに存在も認知していなかった二人が、仕事を通じて交流を深めていくまで。この人の書く兄弟関係は、お互いがとても大事そうで好きです。
セカンドステップ/集英社コバルト文庫
 (Yahoo!ブックスよりそのまま転載)南雲家の除祓に成功した透と真悟の高原兄弟。しかし、真悟は限界を超えた霊力の行使で意識不明になり、ある病院に運ばれてきた。意識も戻り退屈を持て余していた頃、「実は、出るらしいんだ、この病院」と、顔見知りになった入院患者に聞かされた真悟。わざとらしく驚くふりをしたものの、状況は深刻らしい。院内を視て回った真悟が目にしたものは、生身のものではない、一人の少女の姿だった。
 仕事抜きで人助けに走る二人。お人よしは透の専売特許がと思いきや、真悟もかなりその趣があるかと…。今回は中篇2つで、どちらかというと仕事がメインのお話。兄弟はお互いの信頼関係を深めつつあるようです。
ホーンテッドスクール/集英社コバルト文庫
 (Yahoo!ブックスよりそのまま転載)発端は江戸時代の非道な殺人事件、殺された者達の祟り。怨霊封じの御神木。もちろん伐採は代々禁じられてきた。そんな曰くを敷地に持つ学校が高原御祓事務所に依頼にきた。真悟の志望校星南の近くにある賀陽学院である(『禁忌に触れてはいけません』)。一方、星南の女子更衣室では不気味な呻き声を聞く生徒が急増し…(『神さまの配剤』)。「学校の怪談」二篇。御祓屋たちの活躍がはじまる。
 真悟の学校復学問題、透の除祓能力コンプレックスなどが絡んで、水面下で嵐が起こり始めた感のあるシリーズ3作目。いきなり兄弟になったと言って、そうそううまくいくはずもないので、お互いになじんだからこその問題発生はとても納得がいきました。透はもうちょっと、生真面目すぎるところをなおしたほうがいいと思う…。
 なおどういう事情か良く知りませんが、コバルトからは以降の刊行が出来なくなってしまったようで、この続編は同人誌で展開されています。がんばって追いかけていますが大変。
天空の刻印(上下)/小学館パレット文庫
 (Yahoo!ブックスよりそのまま転載)"翼ある天馬を得し者が、広大なる草原を一つとなす"―遥かな昔から、北の草原には、そんな聖獣伝説があった。騎馬の遊牧民の国カブランの首長の養い子として育ったレンは、隣国との戦いに14歳で初陣、第一の武勲をあげる。やがて、南の大国タスタリアがカブランに朝貢を求めてくるが、誇り高いカブランはこれを拒否、両国は戦闘状態に入る。カブランは、タスタリアの策謀で、一敗、地にまみれるが、快活で無鉄砲なレンは、ならばと、伝説の聖獣を探す旅に出発。このレンの勇気と行動力が、聖獣復活につながるのか!?そして聖獣とは!?広大な北の大地を舞台に繰り広げられる英雄叙事詩、遂に登場。
 ユーラシア中央あたりと見当をつけて読みました。この作者さんのことなので、上巻だけ買ったら我慢できなくなると思って、下巻が出るまで待って一気読み。上のあらすじだと出てきませんが、一番のキーパーソンはレンの長兄エルクであり、謎を担うのは医療の知恵を持つ旅人シュ・ルムです。複雑な出生を背負ったエルクと、過去と信念を抱えたシュ・ルム。彼らが波乱の部族抗争の中で取る道に読み応えがありました。
風は江を駆ける(上下)/集英社コバルト文庫
 三国時代のはしりの頃の東呉が舞台。尊敬する父親を殺されて、若き身で一族郎党の頭首となった武将・孫策と、漢室で重きをなす家に生まれながら漢に疑問を抱く智将・周瑜の物語。
 巷間で著名なのは三国志演義。ここで東呉といえば、蜀魏二国のバランスの上に成り立つ国であり、主は孫策の弟孫権である。演義ではほぼ名のみの出演となる孫策は、しかし非常に魅力的な武将だ。彼と周瑜が出会い手を取り合ったことで、東呉は歴史の舞台に名前をあげ、後の世に伝えられて行った。この作中の孫策はまだ家を継いだばかりの青二才であり、周瑜のほうが血筋も家柄も上である。しかし周瑜は孫策につかえて彼を支える道を選ぶ。国の成り立ちや家に対する考えの行き違いから、諍いを起こすこともある二人だが、やがては同じ理想に向けて、互いの持てる能力を存分に引き出しあいながら手を携えていくことになる。シリーズ幕開けとなる今作は、彼らが自分たちの目的を見据えるところまで。読了してすがすがしい。
空の門より出るもの/小学館パレット文庫
 (Yahoo!ブックスよりそのまま転載)幼い少女、杵築琴音を自動車事故から救って重症を負い、高校受験をフイにした遊佐瑛だったが、責任を感じた杵築家では、親類の経営する名門・翠蘭高校に無試験、学費免除で、瑛を入学させる。傷も癒え、登校した初日、彼は幽霊に遭遇。しかもそれは、入院していた病院で見た幽霊と同じだったのだ。クラスメイトで杵築家とも近しい須藤弘瀬によると、杵築家は、古来、人の命を喰らい人を鬼となす"鬼の核"を封じてきた術者の家。アレは杵築家の次代を継ぐ和音の"対"となるもので、鬼の核を封じて倒れた香坂静流の生き霊だという。入学早々、やっかいなことに巻き込まれてしまった瑛だが、事件の核心を瑛が握ることに…!現代伝奇ロマンの傑作登場。
 「高原御祓事務所始末記」とかぶる印象があります。子供を助けて高校へ、とか、ストーリー自体も相手が「鬼」か「霊」かの違いだとか。なのでちょっとこだわってしまいますが、先にこちらを読んだ人は楽しめるんではないかと思います。瑛はかなりさばさばした、目の前のことを理性的に判断できるタイプの少年で、こういう子がナビゲーターだと伝奇ものでも安心して読んでられます。
不機嫌なイマナ/角川ビーンズ文庫
 キターブ・アルサール番外編。本編後、ディラムの領主となったティルフがメインの中篇2本収録。
 見事なまでの書痴、学者気質のティルフが、兄サイードに領主の座を押し付けるべく奮戦する話、ならびにうまくいかずに家出する話、です。前半はかつて雑誌のBeansに載った話の加筆修正版ですが、ティルフの本好きエピソードが補強されていて笑えた…。本編で謎だったカウスのエピソードなども補完され、キャラクターのその後を案じていた人には待望の一冊です。



麻木未穂

黄金の魔女が棲む森/徳間書店
 初期ローマ帝国時代。婚儀を控えた妹を刺した罪で追放された王女シフは、森の老魔女ルヴァーの元に身を寄せる。事件から18年を経ても13歳のまま姿の変わらないシフ。彼女の元に、ローマ皇帝からの迎えが差し向けられる。
 作者さんのデビュー作だそうです。時代と宗教、基本的な人間関係は史実をバックにしていますが、主人公はほぼオリジナルのファンタジー。最大の謎に対する謎解きが駆け足だったことと、地の文章が一人称なのにまれに三人称チックになるのが少々読みづらかったのが残念ですが、雰囲気は楽しめました。捕らわれて手篭めにされかけるヒロインはたくさん見ましたが、その逆はめったに見ないので新鮮。




アイザック・アシモフ

神々自身/ハヤカワ文庫
 月が当たり前に人類の生活圏に入っている時代。他の宇宙から送られてきた物質を通じ、無尽蔵のエネルギーが得られるようになっていたが、その危険性を指摘する声は黙殺されていた。その「他の宇宙」の生物の描写、また危険の回避方法などが実に楽しい。
象牙の塔の殺人/創元推理文庫
 大学の化学実験室で学生が死亡。事故か自殺か、あるいは殺人か。指導の助教授が事件の調査にあたる。



あまんきみこ

車のいろは空のいろ/講談社文庫
 感想はこちら。



雨川恵

アダルシャンの花嫁/角川ビーンズ文庫
 大帝国カストレーデを破った北方の新興国アダルシャン。宝剣ハルシフォンの使い手たる王弟アレクシードが背負わされた講和の条件はカストレーデの皇女との縁談。しかし花嫁は若干10歳の少女だった。
 物怖じせず敵地に乗り込んできた皇女ユスティニアに振り回されるアレクシードが大変ほほえましい。内容的には政略結婚もので、人の死や国の思惑や差別も絡んでそれなりに重い話なのですが、個人的に好きな「差」カップルなので楽しませていただきました。一癖もふた癖もある兄王と弟の関係も面白い。
ハルシフォンの英雄/角川ビーンズ文庫
 宝剣ハルシフォンを下賜された王弟アレクシード。英雄と称えられながら、兄王と腹違いであるという出自、その上に前回の事件も尾を引いて、王宮では猜疑が付きまとう。帝国との戦が終わっても落ち着かない日々だったが、国境に領土問題が発生し…。
 前回口の悪さが際立っていた兄王ユーゼリクス陛下ですが、今回は弟に対する押しの強さがさらに現れてたいそう面白かった。戦場で大活躍のアレクシードも、王宮の有象無象相手ではちょっと大変そうです。義姉の王妃さまとユスティニアが清涼剤のようでした。




綾辻行人

十角館の殺人/講談社文庫
 推理作家綾辻氏のデビュー作。孤島の館に集まるミステリファンの大学生たちのなかで殺人事件が起こる。随所にミステリファン向けの遊び心があって楽しめる。
水車館の殺人/講談社文庫
 推理小説。「館シリーズ」第2作。幻想画家の遺作にまつわる殺人。謎が解けた瞬間「詐欺だ」と思ったのは私だけではないと思う。
迷路館の殺人/講談社文庫
 死を間近にした推理小説の大御所が催した集会。地下に迷路をはりめぐらせた館に集った人々を殺人の恐怖が襲う。私は絶対この家には住めない。毎日迷子になってたまるもんか〜。
人形館の殺人/講談社文庫
 舞台は京都、顔のない奇妙な人形たちが見守る奇妙な館で起こった殺人。館シリーズ第4弾…だが、館シリーズと言われたら素直に首肯しかねる。雰囲気とか落ちとかが結構好きなのでなおさら。
時計館の殺人/講談社文庫
 館シリーズ5作目。相変わらず突き抜けた建築構想がお見事。こんな家が実際あったら絶対見学に行ってます。うんうん、中村青司氏はこうでないと。犯罪の動機が美しかった。
黒猫館の殺人/講談社文庫
 館シリーズ6作目。今回はそんなにひねくれた家じゃないな、と思っていたらラストで大きなどんでん返しが。
殺人鬼/殺人鬼II/新潮社文庫
 スプラッタホラー。…ええ、文字どおり「スプラッタ」でしたとも。2冊合わせて20名以上の死にっぷり、読み切った自分が信じられませんわ。1の方は構成が面白かった…けれども、えぐいのが駄目ではない人にもお勧めしません。老衰以外で死ななきゃならないならせめて即死! 即死イズベストっ!
緋色の囁き/講談社新書
 ミステリー。全篇タイトル通り血の色と臭いが漂っていて、さすが綾辻氏といったところか。
暗闇の囁き/講談社新書
 ミステリー。囁きシリーズ2作目。こちらは子供の視線がポイント。少し筋立てが強引だが、無垢と無知の是と非が綺麗に書かれている。
殺人方程式/光文社文庫
 推理小説。性格の正反対な双子の兄弟(の、主に片方)が探偵役をつとめる。(00.05.31)
殺人方程式2 鳴風荘事件/光文社
 飛鳥井兄弟の推理もの(今回兄ばっかり)。髪を切られて殺害された美女。数年後その妹と再会した面々は、姉そっくりになった彼女の変容に驚く。(00.06.10)
霧越邸殺人事件/新潮社文庫
 突然の吹雪に、湖のほとりに立つ豪奢な別荘へ避難したとある劇団の一行。外界と隔絶した状況下で起こる連続殺人。(00.07.06)
フリークス/光文社新書
 とある病院のとある病棟で、錯綜する記憶と感情。患者たち、あるいは患者の家族たちのつづるの文は、一見正気でありながら、ひたすら読み手に問いつづけている。すなわち、私は誰だ? 私とはなんなのだ? そして、この恐怖の元は何なのだ? ひたすら思いつづける、そこに狂気がある。短編連作。(02.04.26)



有栖川有栖

マジックミラー/講談社文庫
 推理小説。とある別荘で殺人が起こる。交通機関を網羅したトリックの技巧と、それを暴いて読者に見せる手腕が見事。
46番目の密室/講談社文庫
 作家アリスシリーズ第一弾。密室ものミステリを得手とした推理作家の別荘で起こった密室殺人に、若手ミステリ作家のアリスと臨床犯罪学者の火村が挑む。
ロシア紅茶の謎/講談社文庫
 作家アリスシリーズの短編集。パズルが好きな人にお勧めの一冊。
スウェーデン館の謎/講談社文庫
 作家アリスシリーズ。雪深い山の中、ペンションに取材に赴いたアリスが殺人事件に遭遇する。冒頭の子供の描写がとても綺麗です。
月光ゲーム/創元推理文庫
 感想はこちら。
孤島パズル/創元推理文庫
 学生アリスシリーズ。推理小説研究会の新たな会員に招かれてアリスと江神が赴いた孤島。またしても起こる連続殺人を、ダイヤモンドの秘密を隠したモアイ像たちが見つめる。
双頭の悪魔/創元推理文庫
 推理小説。学生アリスシリーズ第三弾。外界と交流を持たない芸術家村に雲隠れした会員を追って、陸の孤島と呼べる山中にやってきた英都大学ミステリ研一行。増水し渡れなくなった川をはさんで、両岸で殺人事件が起こる。探偵役である江神の過去が少し語られる。
ブラジル蝶の謎/講談社文庫
 推理小説。作家アリスシリーズの短編集。毎度のことながら文章が奇麗で、各話の落ちも気の利いた小気味よさで楽しめる。携帯電話が普及し始める前から数年に渡って発表されたものをまとめた本なので、作中の電話の扱いが発表年代とともに変化していておもしろい。
ダリの繭/角川文庫
 推理小説。作家アリスシリーズ。画家のダリを信奉することで知られた宝石店の店長が殺害される。遺体の発見状況から数々の疑問が呈され、臨床犯罪学者火村が出動を要請される。
海のある奈良に死す/角川文庫<
 推理小説。作家アリスシリーズ。「海のある奈良」がどこなのか、これを読むまで知らなかった…。日本のオカルトミステリーに詳しくなれる。
英国庭園の謎/講談社新書
 推理小説。作家アリスシリーズの短編集。火村氏以外の人が探偵役の事件なども収録。落ちがどれも気が利いています。
ペルシャ猫の謎/講談社新書
 推理小説。作家アリスシリーズの短編集。できれば「海奈良」の後に読むべし。表題作のトリックは、…これで良いのか!? と読んだ瞬間に思うこと請け合い…。いや面白いんだけど。
幻想運河/講談社新書
 アムステルダムと大阪、運河と深く関わる歴史を持つ二つの都市をオーバーラップさせたミステリー。現実と狂気の境界上を行き来する人間の精神描写が面白い。(99/11/15)
朱色の研究/角川文庫
 作家アリスシリーズ。火村の教え子が関わった殺人事件の解明。夕焼けの鮮やかな朱色を怖がる彼女の抱える謎とは。
ジュリエットの悲鳴/角川文庫
 短篇集。「短さ」に挑戦したような趣のあるショートショート的作品が多いが、気の利いた落ちに思わずにやりとしてしまったり、切ない思いをしたりと飽きない。(01.09.20)
マレー鉄道の謎/講談社新書
 作家アリスシリーズ。共通の友人の経営するマレー半島のホテルへバカンスに出かけた二人。しかしそこでもまた、奇妙な密室殺人事件に巻き込まれる。
 地元だろうが出先だろうが事件に遭遇するのは名探偵のお約束。男二人でハネムーンの常套コースに行くなよ、と思ってしまったのは私だけではないだろう。今回密室トリックは少々弱いように思うが、筋立てと舞台設定の勝ち。(2002.5.14)
スイス時計の謎/講談社新書
 作家アリスシリーズの短編集。ダイイングメッセージあり、密室殺人あり、生首挿げ替え事件ありと、後書きで作者が述べているように「本格」テイストの話がそろっている。表題作の解決ロジックが一読ではわからず、数度読み直してやっと飲み込めた…。珍しく激昂する火村の図やアリスの作家としての悩みも織り込んだ、シリーズファンにおいしい一冊。(2003.5.15)
白い兎が逃げる/光文社文庫
 作家アリスシリーズ短編集。「不在の証明」「地下室の処刑」「比類のない神々しいような瞬間」「白い兎が逃げる」の4篇収録。
 本格と銘打ってはおりますが、推理に必要な手がかりが読者に対してすべて与えられていないものもあるので、ちょこっと本格とは外れるような。けれども相変わらず綺麗で無駄のないストーリー運びで、安心して確実に楽しめます。
絶叫城殺人事件/新潮文庫
 作家アリスシリーズ短編集。「黒鳥亭殺人事件」「壷中庵殺人事件」「月宮殿殺人事件」「雪華楼殺人事件」「紅雨荘殺人事件」「絶叫城殺人事件」の6篇を収録。
 何篇か既読作品がありましたが、表題作など初読。推理としてはもちろん、人間ドラマとしても読み応えがありました。毎度安心して読める作家さんです。この本は作品配列の妙があり、また現代の不可解な犯罪やマスコミ報道に対する作中アリスの心情吐露、火村とアリスの「学者と助手」の枠を超えて一歩踏み込んだ友誼とてんこもりで、個人的にとても好きな一冊です。助教授がただ裁くだけの人ではないとよくわかって嬉しい。



有栖川有栖ほか

密室/角川文庫
「密室」をキーワードにした推理小説の競作集。(00.05.09)
誘拐/角川文庫
「誘拐」を題材にしたミステリのアンソロジー。短編集で、各作家のひねりを利かせたトリック技が見物。(00.08.29)



安房直子

遠い野ばらの村/ちくま文庫
 心にほんのりと灯かりがともるような優しい文の数々。雑貨屋の片隅にある、ばらの香りの石鹸はいかが?(01.01.13)



淡路帆希

紅牙のルビーウルフ/富士見ファンタジア文庫
 赤子のころ盗賊団ブラッディ・ファングに拾われ、狼とともに育った少女・ルビーウルフ。山野を駆ける自由な生活を送っていたが、ある日突然仲間たちが王の騎士団に殺される。彼女は行方不明になっていた王女だといわれ、神国グラディウスの王都に連れて行かれることになるのだが…。
 イラスト買いしました。騎士ジェイドを筆頭に、悩み多き男性陣もそれなりに格好良いですが(みんな禿げそう…)、きっぱりさっぱりの強い女性陣があでやかです。狼たちも強くかわいらしい。「神から与えられた宝」が味方なので、お話としては水戸黄門型でまとまっています。
紅牙のルビーウルフ 2/富士見ファンタジア文庫
 行方不明の第五の神具、「全知の書」が見つかったとの知らせを受け、隣国トライアンへと出向くルビーウルフとジェイド。実物であれば国同士の均衡を損ねかねない秘宝だが、持ち主のキアラは気弱な印象の美少女だった。
 いよいよ秘宝が一堂に会するかと思いきや、ひとつはお預けとなりました。キアラ嬢の謎で引っ張っていた辺りは楽しく読めましたが、その後の展開に突っ込みどころが多かった…。国家間の陰謀対策だというのに、それはちょっと無理があるんでは〜という行動が多々。勢いはあるので続刊に期待。
紅牙のルビーウルフ 3/富士見ファンタジア文庫
 国運をかけた大工事の視察中、ジェイドが突如失踪した。ルビーウルフは狼たちとともに探索に出かけるが、片腕とも呼べる彼の不在に、自分でも驚くほど動揺してしまい…。
 グラディウス国内のお話。王家の最後の血筋ともなれば、絶対に避けて通れない継承問題。悩める乙女モードに落ち込んでしまった今回、いろいろと歯がゆい事件でしたが、ルビーウルフは良くがんばっていると思います。