岡篠名桜

月色光珠 黒士は白花を捧ぐ/集英社コバルト文庫
 科挙を受験する弟ともに、故郷長安に戻ってきた少女・琳琅。ある夜出会った黒衣の男・魏有に依頼され、彼女の一家が没落する原因を作った金貸しの娘の護衛をすることになる。
 腕に覚えあり、しかし健気な剣士の少女が、謎めいた男と都を駆ける。お互いに少々鈍い上、魏有の任務の背景やライバル兼幼馴染の春蓉の思いに振り回されがちで、恋愛もじれったく楽しめます。琳琅の弟君、いい性格…。(2006.9.10)
月色光珠 暁の野に君を想う/集英社コバルト文庫
 北の地から長安へ、琳琅の母と幼馴染の馮生がやってきた。義父の死の謎を探りたいという馮生に協力する琳琅だが、魏有は関わらぬように警告する。琳琅の勤める茶館の先輩給仕も何故か憂い顔で…。
 謎や隠し事を持った人たちがたくさん。琳琅は恋と友情に二つながら奮戦しますが、社会やお国の大事の壁は厚く。でもちょっとは進展したかな。(2006.9.10)
月色光珠 /集英社コバルト文庫
 謎の盗賊・飛天竜駒が世間を騒がせている長安。ある夜、琳琅が大切にしている宝玉・夜明珠が何者かに盗まれる。魏有に頼るわけにはいかないと思いつめる琳琅は、自力で珠を取り戻すために奔走するが…。
 食えない性格の某老人やら謎の用心棒やらの裏の顔・もしくは素顔が現れてきた第3弾。個人的に、壊れた魏有がたいそう笑えました。琳琅は大立ち回りこそやってませんが、相変わらず無鉄砲。よきかな。(2006.12.11)



大原まり子

銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ/ハヤカワ文庫
 感想はこちら。
メンタル・フィメール/ハヤカワSF文庫
 サイバーSF小説。コンピュータに管理された世界、またはコンピュータの仮想世界が日常と相互に影響を与え合っている世界の、どこか歪んで血の匂いのする話の数々。精神的に不安になれます。
戦争を演じた神々たち[全]/ハヤカワ文庫
 SF。「神々」「女たち」「世界」「戦争」の4つのパートに分けられた全11編の短編を収録。全編で一つの世界を舞台にしているが、それぞれの作品は独立しており、灰と頽廃、熱気と進化の対比が随所に見られる。(00.08.30)



ブライアン・W・オールディズ

地球の長い午後/ハヤカワ文庫
 ハヤカワではけっこう古い部類に属する作品。地軸の倒れた地球が舞台。
 地球が常に同じ面を太陽に向けて公転しており、しかも太陽が輝きを増しているため、生物はほとんど死に絶え、植物が繁茂して我が世の春(夏か)を謳歌している。進化した植物たちは動物の様に動きまわって人類を捕食する。それでも人類は環境に適応し、細々と命脈をつないでいた。
 主人公の少年が旅路で会う退化した人類、彼らが最後につないでいる希望の正体もさることながら、植物たちの描写がとても楽しい。私は巨大サイズの食虫植物がやたらみっしりぎっしりと繁茂しているところを想像してしまった。(92.02.03)



小野不由美

図南の翼/講談社X文庫ホワイトハート
 十二国記シリーズ。珠晶が供王の位につくまでの黄海の旅。なんつーかグレートにかわいいわ珠晶! 供麒に初対面でやらかしたことが、国の未来の安泰を告げてます。はっきりきっぱりした自己主張が素晴らしい。彼女を助けあるいは振り回される男性陣も良。この世界のシステムの難点が、彼女の言葉の随所に感じられます。(96.02.15)
黄昏の岸 暁の天/講談社文庫
 十二国記シリーズ。長らく、本当に長らく不明だった戴国主従の謎が明らかになる…かと思いきや、謎はより一層深まってしまいました。「魔性の子」とほぼ同じ時間軸で、その当時十二国がどういう状況だったかわかります。ついでに世界の成り立ちと戒律も少しわかります。ファンタジーに慣れている読者たちが読み過ごしてきただろう疑問点を、陽子が無自覚ながら突いています。(01.04.18)
華胥の幽夢/講談社文庫
 十二国記シリーズの短篇集。全五編収録されています。戴がまだ平和だった当事に、幼い泰麒が漣を訪問する話(冬栄)は、上の「黄昏の岸 暁の天」の少し前に雑誌に掲載されたものです。泰麒がひたすらまじめでかわいい。「乗月」は「風の万里 黎明の空」の少し後の話で、陽子から芳へ書簡が送られます。「書簡」…楽俊と陽子の手紙のやりとり。こちらは陽子の登極直後の話。本のタイトルでもある「華胥」は、才国の興亡を、理想と現実を絡めて書きます。最後「帰山」は、長生き国家を代表する風来坊二人の邂逅。読んでのお楽しみ。毎度思うことですが、王とは何か麒麟とは何か、天命とは何かを誰も明確には知らず、それを模索しながら闘う様がとても興味深いです。しかしほんとに、どうなってるんだ戴国主従。つーか十二国全体が転換期に来てたりするんでしょうか。(01.07.19)
悪霊シリーズ/以上講談社X文庫ティーンズハート/講談社X文庫ホワイトハート
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緑の我が家/講談社X文庫ホワイトハート
 ホラー小説。家の事情で一人暮らしをはじめた高校生が、引越し先で出会う怪奇現象の数々。「生きている幽霊」たちの描写が恐い。
過ぎる十七の春/講談社X文庫ホワイトハート
 ホラー小説。春、例年どおり山里にある従兄弟の家を訪ねた兄妹が遭遇する思いもかけぬ悲劇。風景の描写が美しい。挿し絵が繊細で内容に良く似合っている。
屍鬼(一)〜(五)/新潮社文庫
 ミステリー。1998年にハードカバー上下巻で出たものを文庫化したもの。
 山の中にあり、三方を山と樅の木で囲まれ、社会的にも地理的にも「閉じた」存在である外場村。人口1300人の小さな村で、ある夏、不可解な死が相次ぎはじめる。夏の終わりには死者は加速度的に増え始め、あるいは失踪し、人々は少しずつ姿を消していく。反して増えていく、夜にうごめく者たち。
 住人達の生活を微に入り細に入り描写しながら、少しずつ蓄積していく違和感と恐怖。相変わらず無駄を見事なまでに省いた筆致ながら、読み進んでいくうちに、自分も外場村の住人になったかのような気持ちにさせられる。状況に気づいた複数の人たちの行動がすれ違い、読んでいてはらはらした。最初の二冊で、どうしてここまで細かく村を描写するのかと辟易したが、それは四章にいたってとてもよく理解できた。その描写あってこそ生きる結末だった。
 登場人物の一人が書く劇中小説は、聖書に見る人類最初の殺人を題材としたものである。添景と思いきや、それは深い主題だった。神の不在。見捨てられた村で、見捨てられた人が選ぶ道が切ない。