秦郁彦
南京事件/中公新書
 タイトルどおり南京事件について。なるべく事件を公平に見ようという姿勢が窺われる。
八月十五日の空/文春文庫
「日本空軍の最後」と副題がついている。終戦前後の日本空軍の状態に関して、ほぼ時系列どおりに、偏りのない様々な土地を取り上げて書いている。特に終戦直後の最後の抵抗のあたりが興味深い。
昭和史の謎を追う(上下)/文春文庫
 激動の昭和、戦争と侵略と新たな国造りと国際関係のただなか、歴史の謎として葬られていく数々の事件を再検証。強いて解決・結論は出しておらず、資料・証拠のないものに関しては(それが大部分だが)謎は謎のまま残されている。あまり憶測でものを言わないこの作者の姿勢は好感が持てる。



浜田寿美男
自白の心理学/岩波新書
 なぜ人は、やってもいないことを自白してしまうのか?
 戦後に日本の法律は自白偏重主義から脱却し、拷問などによる無理な取り調べも禁じられているはずだが、それでも冤罪は存在する。自白は相変わらず重要な証拠と見られている。それは「やってもいないことを告白するはずがない」という考えからすれば当然のことだが、人は精神的肉体的な圧迫や疲労、その他さまざまな要因で容易に自白してしまうのだという。しかし所詮は作り事であり、自白調書を丁寧に読めば、虚偽のストーリーが見えてくるのだと。この本では様々な類例を挙げ、代用監獄の弊害や取調べの手段などにも言及しつつ、自ら架空の自白をしてしまう心理に迫る。
 読んでいてしみじみ、もし自分がやっていなくとも、私なら3日目くらいで自白してしまうかもしれないと思った。警察の手練手管はすごそうです。(2002.12.15)



早川いくを
へんないきもの/バジリコ
 広い世界には、人の想像を遥かに越える姿や生態の生き物がわんさかといるものです。「ヘン」という言葉が似合ってしまういきものを、精密なイラストと軽妙なトークで紹介する一冊。ヤマトメリベとかオオグチボヤとか生で見てみたい!
またまたへんないきもの/バジリコ
 前冊からの続刊。イラストとトークの構成は同様、ページ数は増えてさらにフルカラーイラストがおまけについている。しかしインパクトが強くて部屋に飾れない! 絶滅しかけた生き物も多いとのこと、人間はこの世界の多様性を認識して、もうちょい謙虚になりましょう。とりあえずごみくらいは持ち帰れ…。



阪野吉平
戦争証言110 生き残った元日本兵/新風舎文庫
 タイトルどおり、第二次世界大戦に従軍し、生き延びた日本兵に対するインタビュー。いずれも実体験者の貴重な証言ながら、紙面の都合上短く切られていたのがいかにも残念。証言者の方の写真が掲載されているため、それぞれの言葉が生々しく感じられます。



日垣隆
そして、犯罪者は野に放たれる/新潮文庫
 旧憲法下で成立しながら、平成の今日まで抜本的な改革がなされていない刑法。この本では特に「心神喪失」「心神耗弱」について規定した刑法第39条に焦点を当て、殺人者がほんの数年の懲役、もしくはまったくの無罪で社会に戻される実際についてつづる。熱をこめて書いているのはわかるのだが(むしろそのためか)、何が言いたいのかわかりづらい文章が散見されるのが残念。私は「飲酒運転は罪が重くなるのに、飲酒殺人は罪が軽くなるのは何故か」がかねてから疑問だったのだが、実際に起こされながら裁かれない・報道されない犯罪が多いことに驚かされた。



久田恵
ニッポン貧困最前線 ケースワーカーと呼ばれる人々/文春文庫
 災害や傷病など、様々な理由で働けなくなり、国の定める最低限度の生活が出来なくなった人々。これらの人々のための扶助制度が適切に運用されるよう、福祉事務所で現場に当たっているのがケースワーカーと呼ばれる人たちである。
 生活保護の不正受給が発覚したとき、まず締め付けの強化がうたわれる。だが個人の努力ではいかんともしがたい貧困、就職難というものは確実に存在すると作者は示す。逆に保護対象の世帯がリストから漏れていたと見なされる場合も、福祉事務所の怠慢が叫ばれる。しかし実際の例の中には、職員の努力が及ばない各家庭の事情が存在している場合もある。福岡の不正受給事件、札幌の主婦の餓死事件という真逆のケースから、これらの問題点が浮かび上がってくる。
 こうした事件が発覚したとき、世間からたたかれるのは、結局は現場の職員たちである。「最前線」の職員たちの言葉と事例から、日本の福祉を考える一冊。わかりやすく読みやすいのでおすすめ。



平岡敬
希望のヒロシマ/岩波新書
 元広島市長の立場から、核の脅威に対する意見をつづった書。広島は被爆都市として世界に核廃絶をアピールしつづけている。しかし世界はアジアの小都市の提言を省みることなく、核配備は形を変えながら増強しつづけられている。国際司法裁判所での核兵器違法性陳述、原爆記念日の平和宣言、アメリカの公開講座やスミソニアン問題など、広島市長ならではの活動を振り返り、その苦悩と未来への提言を語る本。著者が基本的に前向きな姿勢なので読後感が良かった。



平山夢明
異常快楽殺人/角川ホラー文庫
 アメリカの異常殺人犯と言われる人々の犯罪の記録。怖いもの見たさで読んだのだが、もう私は「サイコ」などの映画を見る気が完全に失せた。映画よりはるかに現実のほうが怖い。現実と言えば、これを「ホラー文庫」に入れた人の気が知れない。もし多少の誇張が入るとしても、すべて現実の、被害者も存在している事件を「ホラー」のくくりに入れるのは不謹慎ではないだろうか。(2002.11.28)



G.ピレッリ
若き死者たちの叫び/教養文庫
 ナチス、ファシズムに抵抗して投獄された人々が、刑務所から家族や友人や恋人へ出した書簡集。死刑を間近にした人々の、自由や信念にささげられた最後の言葉の数々が胸をうつ。おすすめだが残念ながら絶版。



広島市原爆体験記刊行会編
原爆体験記/朝日選書
 進駐軍占領下で発行禁止になった広島市民の体験記を、昭和30年代に編纂し直して発行したもの。



福岡県弁護士会子どもの権利委員会
非行少年と弁護士たちの挑戦/生活人新書
 「少年犯罪が増えている」「少年は少年法に守られすぎている」。こうした声が聞かれるようになって久しいが、福岡県弁護士会は2001年から、鑑別所に送られたすべての少年の付添い人となる制度をはじめた。実は統計上犯罪件数自体は増えていないし、一度裁判が開かれて刑が確定してしまったら、その後成人の犯罪のように覆す機会を与えられない。その裁判にも弁護人は必須ではない。いずれ社会に戻らざるをえない彼らを支え、立ち直る道をともに模索する弁護士さんたちの手記。よく言われる「非行少年が少年法によって守られている」というのは必ずしも正しくなく、実際は被害者がよりいっそう守られていないだけなのではないか、と読了して思った。



藤岡明義
敗残の記/中公文庫
 第二次大戦中、「玉砕」という言葉が使われた戦地がいくつか存在する。藤岡氏はその内の一つ、死者行方不明者6000人を数えるフィリピンのホロ島から、たった80人の生存者の一人として帰還した。ホロ島が他と異なっていたのは、戦闘での死者2000人、餓死者病死者が2000人のほか、現地の住人に虐殺されたものが2000人と推計されている点である。この本はその敗走の日々を綴った記録。



二木雄策
交通死/岩波新書
 感想はこちら。




ユリウス・フチーク
絞首台からのレポート/岩波文庫
 感想はこちら。



別冊宝島編集部編
身の毛もよだつ殺人者たち/宝島社文庫
 実録犯罪ものをよく読む人にはなじみの犯罪者たち15名(組)についての略歴と、それぞれの事件についての概略。良くも悪くも週刊誌調で、余り掘り下げて書いてはいない(ページ数を見れば無理もないが)。平山夢明氏のエピローグがわかりやすかった。



マイケル・ベレンバウム
ホロコースト全史/創元社
 ナチスが行ったホロコーストに関する資料集。アメリカ・国立ホロコースト記念博物館編。いかに効率よく権力を掌握し、いかに効率よく侵略し、いかに効率よく人を処分するか、だろうか。気力体力のないときに読むと夢でうなされる…。



辺見じゅん
レクイエム太平洋戦争/角川文庫
 「昭和の遺書」という、第2次大戦中に戦地から兵士が送った遺筆を編んだ企画から、作者が特に強い印象を受けた人物について調査したもの。死を覚悟しながらも、残る家族や親しい人々に思いを残した人々の記録。
収容所から来た遺書/文春文庫
 タイトルの「収容所」は「ラーゲリ」と読む。第二次大戦後シベリアに抑留された日本人の遺書を、書面の持出を禁止された仲間たちが「記憶」という方法で遺族に伝える。(00.07.16読了)
昭和の遺書1〜3/角川文庫
父へ、母へ、最後の手紙(「昭和の遺書」1)
妻へ、子へ、最後の祈り(「昭和の遺書」2)
弟へ、妹へ、最後の詩(「昭和の遺書」3)
 3冊とも第2次大戦中に戦地から兵士が送った遺筆を編んだ企画。生死の境の戦場から家族を案じて送られた手紙は、遺書として書かれたものではなくとも、必ず死を見据えて書かれている。
昭和の遺書 南の戦場から/文春文庫
 角川の昭和の遺書シリーズと似た主旨で、特に南方戦線に送られた兵士からの遺書を編んだもの。
戦場から届いた遺書/文春文庫
 著者のライフワークとも呼べる、第2次大戦中の無名兵士たちの遺稿集。明確に遺書として書かれたものあり、本人も意図せざるまま「遺筆」となってしまった日記や書簡あり、いずれにしても死と隣り合わせにありながら国に残された家族や親しい人たちを思う心に変わりはなく、読んでいて胸を打つ。粘り強くこれらの遺書たちを集め、遺族と語らい、その中から次世代へのメッセージを伝えることに努めてきた編者の姿勢に敬意を表したい。



辺見じゅん・原勝洋 編
戦艦大和発見/角川春樹事務所ハルキ文庫
 1985年夏、「海の墓標委員会」により、戦艦大和の沈没点が特定された。大和探索のドキュメンタリー、沈没の状態、建造時の構造や戦闘力の詳細など、戦後の大和のデータブックとも言える一冊。



本田勝一
南京への道/朝日文庫
 日中戦争時、南京攻防戦において日本軍が大陸ではたらいた蛮行を、被害者・加害者双方の体験談から検証したもの。南京事件は、「南京虐殺はあった」「なかった」論争を経て、現在は「虐殺の被害者三十万人以上」対「敗残兵処刑の刑死者五万人以下」論争になっている気がする。この本は「虐殺」を支持。確かに書かれていることが事実ならば30万人は軽く行くと思う。
子供たちの復讐/朝日文庫
 1970年代後半に起こった、開成高校生の殺人事件、同じ高校の生徒の祖母殺害事件について。神戸の事件以来「子供たちがおかしい」と騒がれているが、子供はあまり変わっていないのに、子供を取り巻く環境が20年前から後退を続けているだけのような気がする。
殺される側の論理/朝日文庫
 人種、政治、障害などによって「差別される」人々、戦場で砲撃にさらされ「殺される」人々の側にたって書かれたドキュメンタリー。社会の矛盾、おそらくは多くの人が気づかない差別意識などにも言及されている。耳が痛い。
戦場の村/朝日文庫
 ベトナム戦争の現地ルポ。1969年、半年間にわたってアメリカ軍とベトナム解放戦線の両方に従軍し、戦場を渡った筆者の熱意には頭が下がる。ただ読んだは良いが、私はベトナム戦争についての基本的な知識がなかったので(いつ始まったのか、だいたい何が原因で戦争が始まったかすらよくわかってなかった)、アジア現代史を勉強してからもう一度読もうと思っている。
アメリカ合州国/朝日文庫
 大国アメリカが国内に抱える矛盾、黒人やネイティブアメリカン差別についてのルポ。これも30年近く前の出版だが、根に潜っている差別意識は今もあるのではないだろうか。
中国の旅/朝日文庫
 正しくは「第二次大戦中日本軍が中国でやったことをたどる旅」だろう。先に「南京への道」と「天皇の軍隊」を読んでいたので心構えはできていたが…昔の日本軍って馬鹿? 馬鹿しかいなかったの?
検証・カンボジア大虐殺/朝日文庫
 ポル・ポト政権下のカンボジアで失われた人命の規模を定量的に分析する。虐殺の記録を読んで、これが実際に行われたことかと思うと吐き気がした。



本多勝一・長沼節夫
天皇の軍隊/朝日文庫
 読むのがしんどくて1ヵ月以上かかった。日中戦争当時の中国大陸における日本軍の記録。当時三光作戦と呼ばれた「焼き尽くし・奪い尽くし・殺し尽くす」の日本軍の方針の元、少なく見積もって一千万人以上の中国人が殺害されている。日本軍が起こした洪水の被害者や農地破壊による餓死者まで入れるともっと多くなるそうな。この本では加害者が自らの行ったことについて語っている。
 途中「アメリカが戦争に加わっていなくても、日本は八路軍相手に負けた」という旨の記述があり、思わず納得してしまった。日本軍馬鹿だ馬鹿すぎる…。