安能務(訳)
封神演義(上)(中)(下)/講談社文庫
 漫画で連載しているので、昔上巻の中途で放り出してあったのを引っ張り出してみた。古代中国の伝奇文学の訳。殷周易姓革命にかこつけて、超常の力を持った仙人たちが、秘密兵器を用いて戦う。正確に言うと、殺しあう。何もかも超越してるはずの仙人だが、どうしても「殺したい」という欲だけは押さえ切れない為、数百年に一回殺しあう必要があるということで、それが第一目的ってあたりが怖い。SF小説と言った方が通りが良さそう。(97.03-97.04)



安西篤子
壇ノ浦残花抄/集英社文庫
 女性が主役の歴史もの短編集。いつの世も女性はたくましいです。
歴史を彩った悪女・賢女・才女/講談社文庫
 日本の歴史上著名な女性たちの生涯をたどる。



伊藤和明
地震と噴火の日本史/岩波新書
 どちらかというと科学に分類される本だと思うが、タイトルに則ってこちらに。
 地震や噴火は繰り返し起こるものだが、「天災は忘れた頃にやってくる」の格言を引くまでもなく、その繰り返しのスパンはとても長い。噴火の傾向や予想される災害については、科学的に分析することが必要であり、その分析の元になるデータは過去の歴史を紐解くことによって求められる。著者は現在防災機構会長をつとめる防災の専門家。この本では日本書紀に見られる噴火の記録に始まり、歴史に長く名をとどめる大地震・大噴火・大津波について解説。過去から教訓を得て今日の防災に役立てることの必要性を説く。災害に遭った人々の残した記録も多数掲載されており、歴史の読み物としても興味深い。(2003.4.3)


上田和夫
ユダヤ人/講談社現代新書
「ホロコースト全史」を読む前に、「そもそもなんでユダヤ人って歴史的に迫害されてたんだろう」と言う疑問のもとに読んだ。ユダヤ人の歴史と文化、現代のイスラエル社会などについて書かれている。(00.07.21)



黒田日出男
龍の棲む日本/岩波新書
 「行基図」と呼ばれる、700年ほど昔の日本地図が現存している。奈良時代の僧侶行基が作成したと伝えられる古地図だが、金沢文庫に保管されているそれは、関東から東側が破れてしまっている。その図では鱗を持った謎の生物が、ぐるりと日本を取り巻いている。頭と尻尾の部分は破れている側にあり、蛇か龍かと予想は出来ても実態はわからない。なんとも想像力をかきたててくれる、ロマンあふれる地図だ。
 この本では「行基図」を出発点に、中世日本の人々が思い描いていた「国土」の姿を探る。地下に広大な洞窟がつながり、そこには龍が棲んでおり、彼らが動くと地が鳴動する―――素朴ながら壮大な日本像が、中世から今日へどのようにつながるのか。正直、読んでいて論点がどこにあるのか時々わからなくなったのだが、エピローグできれいにまとめている。最後の章を読んだあとで頭からたどりなおすとわかりやすいかも。(2003.5.7)



小林章夫
イギリス王室物語/講談社文庫
 ヘンリー8世以来の著名なイギリス国王たちの伝記。イギリスならびにイギリスを巡るヨーロッパの歴史を駆け足でたどる。個性的な人が揃っているので飽きない。歴史を楽しく知りたい人にお勧め。(2002.11.6)



杉本苑子
女人古寺巡礼/新潮文庫
 女性にゆかりのあるお寺の巡礼記。
今昔物語ふぁんたじあ/中公文庫
 今昔物語から題材を取った短編小説集。
決断のとき/文春文庫
 過去の歴史上、転換期の人々の選んだ道について。
姿見ずの橋/新潮文庫
 いろいろな時代の庶民を中心とした時代物の短編集。世相を斜めに見る人々の話が多い。いずれの話も短いながら人物像がくっきりしていて面白いが、中の江戸時代の産婦人科医の話は妊娠中の人には読ませたくない。
引越し大名の笑い/講談社文庫
 戦国時代から江戸初期までの時代物の短編集。武士・大名たちの名と血を賭けた生き残り戦術の話が主。表題作は一生のうち7回配置替えになった大名の話で、これだけ「のんき」な雰囲気がある。
竹の御所鞠子/中公文庫
 鎌倉二代将軍頼家の娘鞠子とその母親の波乱の生涯を描く。頼家の5人の子のうち男はすべて客死し、「殺されなかった」のは鞠子ただ一人。ひっそりとおだやかに暮らすことを望んでいた彼女だが、三代将軍実朝の死後、四代将軍三寅の御台所となることを定められる。鞠子は三寅より二十歳近く年長。婚約のときはすでに夫も娘もあったが、頼朝の血を引く最後の一人となった彼女に幕府は容赦なかった。
歴史を語る手紙たち/文春文庫
 日本史上の著名人たちの残した手紙から、その人の人生観、対人関係などを検証した作品。思いがけず人間味あふれる歴史上の人物の姿が垣間見られる。
不義にあらず/講談社文庫
 武家社会の中で、傍目には不義・不埒を働いたと見られる女性たちの心情を吐露した9つの短編を収録。
天智帝をめぐる七人/文春文庫
 軽皇子(孝徳帝)、額田女王、鏡女王、有間皇子など、天智帝にまつわる人々7人の目を通して、古代日本に君臨した強烈な個性をさぐる。
虚空を風が吹く/講談社文庫
 歴史小説。舞台を踏む人々の渡世を軸に、複雑に交錯する思いを描いた短編集。
江戸を生きる/講談社文庫
 一口に江戸時代と言っても、徳川15代約260年を数える。この本は、大阪の落城に始まり討幕運動に終わる時代の中から、その時代を反映する代表的な人物たち、またその人々の影で無名ながら、やはり江戸期を生き抜いた庶民たちの姿を描く。
日本女性「愛」史/講談社文庫
 一つの時代、もしくは一人の人物に関わる人の内から著名な二人の女性を選び、その対比から時代背景とその女性たちの生き方を探るインタビュー形式の本。紫式部と和泉式部、お市の方とお大の方、築山殿とお勝の方、などなど。
能の女たち/中公新書ラクレ
 能というと、伝統芸能、歌舞伎以上の様式美の世界であり、初心者には敷居が高い感が否めない。この本では長年能に親しんできた作者が、物語としての観点から解説を試みている。登場してくる女性たちには、身分の高いものもいれば低いものもあり、したたかなものがいると思えば救いを求めても得られぬものもいる。人を食う呪われた我が身を嘆き、たまたま投宿した僧に縋ろうとして裏切られた鬼女。失った我が子を求めてさすらう狂女。夫の罪科を無に帰すべく、役人と丁々発止と遣り合う妻。高貴な人の戯れに召され、やがてうち捨てられる姉妹。「能面のような」といわれる仮面が、いかに表情豊かに語るかを、著者の筆が鮮やかに指し示す。(2002.6.2)



竹内寛子
日本の恋歌/岩波新書
 万葉集から現代まで、多くの歌人の恋の歌を30作紹介。解説の話題が脈略を明示せずにあちこち飛ぶので少し読みづらい。



寺山修司
さかさま文学史 黒髪編/角川文庫
 文豪・俳人と呼ばれる人々と交わり、それによって彼らの人生を変えた、または自分の人生を変えられた女性たちの列伝。
さかさま世界史 怪物伝/角川文庫
 ネロ、ナポレオン、ニュートン、サン・テグジュペリ、エトセトラエトセトラ。「怪物」と称される各界著名人も、寺山氏の筆にかかると…。



永井路子
歴史を騒がせた女たちシリーズ/文春文庫
感想はこちら。
北条政子/角川書店
感想はこちら。
旅する女人/文春文庫
 意外な発見というべきか。歴史を足で見る本である。
山霧(上)(下)/新潮文庫
 毛利元成の奥方の伝記。NHK大河ドラマの原作。まだ毛利家が中小企業の社長レベルだった時代のおかみさん、という感じで親しめる。
にっぽん夫婦げんか考/中公文庫
 歴史/伝説上の人物の夫婦喧嘩について考察。時代を反映しつつもどこかユーモラスな夫婦の関係がおもしろい。
歴史の主役たち/文春文庫
「変革期の人間像」という副題のとおり、歴史の舞台で活躍しつつもどこかマイナーな人たちの考察。伴善男、後醍醐天皇など。
執念の家譜/講談社文庫
 歴史小説。鎌倉時代から北条氏に対決し続けた三浦氏を描く表題作ほか、室町・戦国時代など、それぞれの時代で野心を持っていた人々をめぐった短編集。
よみがえる万葉人/文春文庫
 万葉集の解説。読売新聞の日曜版に連載していた。歌人にスポットを当て、その人の経歴や人生とてらして歌をわかりやすく紹介している。
王朝序曲(上・下)/角川文庫
 歴史小説。桓武天皇時代から平城・嵯峨天皇の時代が舞台で、主人公は藤原冬嗣(道長の先祖)と藤原真夏の兄弟。
 桓武帝の死をもって古代日本の「帝王」時代は終わりを告げる。平城帝のそばにあって、宮廷に渦巻く愛憎に立ち向かった真夏と、嵯峨帝のそばにあって淡々と日々を過ごしながら、最後に権力に近づいた冬嗣の対照。
葛の葉抄/PHP文庫
「江戸時代の清少納言」こと只野真葛の人生を描いた長編小説。 有為転変の後に筆をとって自由な思いを形に残した只野真葛。時には辛辣、また時にはユーモラスに世間や社会を論じた文は、女性に自由のなかった時代のものとは思えない楽しさがある。
姫の戦国(上下)/文春文庫
 戦国時代はじめ、今川家で采配をふるった女性「寿桂尼」の伝記。動乱の世の中にあって、「そうするよりほかにしかたがない」と腹をくくり、表舞台に立つ姿勢は自然体で強い。
歴史のねむる里へ/PHP文庫
 京都・鎌倉・大和・箱根…歴史の激動の中で舞台となってきた土地を「歩いて」紀行した本。古代人たちと同じ道のりをたどり、記録を検証してみたりもしていて興味深い。実際に地図を探して歩いてみたくなる。おすすめ。
うたかたの/文春文庫
 江戸時代が舞台の歴史小説。学問による立身出世を試みた一人の男の人生を、彼に関わった女性たちの視点から、オムニバス形式でつづる。「人生は死ぬまでの暇つぶし」という言葉が印象に残った。
望みしは何ぞ/文春文庫
 歴史小説。藤原道長の息子でありながら余り重く用いられなかった男が、王朝の政治舞台の裏側をさめた視点で見つめる。同じくうち捨てられた皇女に差し伸べた手が、後に院政期への意図せぬ歴史の流れを生む。
永井路子の日本史探訪/PHP文庫
 NHKの番組「日本史探訪」を対談形式で再構成したもの。様々な時代の人物をとりあげ、歴史学者や作家などの対談相手(実際に対談しているわけではなく、そう見えるように番組を構成していたそうだが)と見識を披露しあっている。
我が千年の男たち/文春文庫
 人気シリーズ「歴史を騒がせた女たち」の男性版。吉良上野介、源義経、筒井順慶、足利尊氏など、歴史上著名だが実像が捉えにくい人々の検証をする。



永井路子&杉本苑子
時代を旅する/文春文庫
 女流歴史作家として著名なお二人が、さまざまな時代を代表する人物や事件について、ゲストを迎えて語り合う。特に最後の第二次大戦談義では、御本人たちの体験を交えて本音が飛び交い、とても面白かった。



宮城谷昌光
王家の風日/文春文庫
感想はこちら。
侠骨記/講談社文庫
 中国古代から周の中期までを題材にした短編集。夏王朝・舜の神話、また殷周易姓革命の周召同盟、周代の魯と斉の抗争などを描く。漢文調の上JIS第二水準あたりの漢字が頻出するが、小気味良い文章で楽しめる。
歴史の活力/文春文庫
 古代中国を舞台にした時代小説を得意とする宮城谷氏が、中国の古典と日本の第一線で活躍する人々をリンクさせて語る「活力」の秘訣。
史記の風景/新潮社
 史記から題材を得て日常にフィードバックするエッセイ集。含蓄のある言葉がたくさん見られる。
太公望(上中下)/文春文庫
 古代中国、商周革命に大役を担った周の軍師・太公望呂尚が主人公。私にとっては苛烈な策士の老人という印象の強かった人物だが、この作中の太公望は、革命時にまだ壮年と言ってよい年齢。冒頭、商に部族を滅ぼされた時点から話が始まるが、この段階では15歳。生き残った子供たちを守りながら長い旅をし、その途上で会った人々から多くを学び、また地道に人脈を得て、まさしく蟻の一穴から堰を壊すという言葉そのものの人生を歩みとおした。天を動かした男の魅力が余すところなく溢れている小説。(2002.03.15)
沈黙の王/文春文庫
 古代中国を舞台にした短篇集。初めて文字を発明した黙せる王・殷の高宗武丁を描いた表題作をはじめ、夏王朝の黎明、周王朝の興亡、一宰相のたどる栄達と晩年の寂寥など、幅広く多彩なテーマで乱世の群像を描く。
 漢文に長く親しみ、中国の風土や歴史に愛着のある作者ならではの話の数々。どれも短いながら心に残ります。(2002.6.10)



宮崎市定
科挙/中公新書
 「中国の受験地獄」と副題がついている。隋の時代に始まり、打ち切られる1904年に至るまで、中国の国家をあげての大事業だった科挙のしくみを紹介。



森島恒雄
魔女狩り/中公新書
 中世ヨーロッパ史に重い影を投げかける魔女裁判。この本では異端審問に端を発した「異端狩」が、ヨーロッパを席巻する魔女狩りへと変貌していくまでの歴史と、魔女裁判の実際、さらに収束への流れを描く。
 大部分の人間が悪魔の存在を心から信じ、聖職者の多くは魔女を焼き殺すことこそ本人のためと信じていた時代。キリスト教に根ざす「人間救済」を看板として、魔女の財産や土地を没収し、私腹を肥やしていた裁判官や官吏たち。拷問を逃れるために他の魔女たちの名を口にすれば、それは彼らの死刑執行書にサインすることに他ならず―――。
 13世紀ごろまでは、教会は魔女に寛容であり、異端審問の行き過ぎを取り締まってすらいたという。しかし16世紀には、魔女は死刑にしなければならない存在となった。慈悲深く知識にあふれた聖職者が、心から神の意志と信じて魔女狩りを遂行する。しかし魔女の財産を没収することを禁じられていた国では、魔女狩りはさして厳しくなかったと言う事例などからすると、権力と宗教とが結びつき、宗教から微妙に逸脱したところで暗黒裁判が転がり始めてしまったと言えると思う。些細な猜疑や嫉妬が密告へと結びつく恐ろしさ。どこか現代社会にも通じる世界である。最終章の魔女狩りに抵抗した人々についての短い記述にわずかに救われるが、それもまた社会に押しつぶされた言葉であると思うとひとしお悲しい。(2003.5.18)