会田雄次
アーロン収容所/中公文庫
 終戦をビルマで迎え、イギリス軍の元で捕虜となった作者の体験談。特殊な状況下での集団生活、イギリス軍に感じていた感情などを赤裸々につづる。



青木やよひ
ホピの国へ アメリカインディアンに学ぶ/広済堂出版
 1980年代にアメリカを尋ねた著者の目で見た「インディアン」の生活(本書中この呼称が敢えて使われているためここでも倣う)。物質文明や先進と呼ばれる国から「未開」とみなされる文化が、いかに示唆に富んだものであるかを論じたもの。視点は面白いのだが、いまいち著者のアメリカ旅行記という点から逸脱できていないように思う。



秋山賢三
裁判官はなぜ誤るのか/岩波新書
感想はこちら。(2002.11.24)



朝日新聞広島支局
原爆ドーム/朝日文庫
 人類の「負の遺産」として世界遺産に登録された原爆ドーム。登録にいたるまでの経緯を軸に、設計者の伝記、かつて「産業奨励館」としてにぎわった当時の記録なども交えたドキュメンタリー。日本では世界遺産登録でそれなりに盛り上がりを見せたが、アメリカや中国など、当時日本と戦っていた国の反応は冷めているか反発かだったらしい。他国の意見はあまり報道されなかったように思うので興味深かった。(2003.1.20)



飯塚訓
墜落遺体/講談社
 日航ジャンボ機墜落事故の折、検死の責任者だった著者の遺体確認の記録。ぎりぎりの状況下で尽力された関係者たちの奮闘には頭が下がる。あまり関係ない話だが、「遺体の右手を探してほしい、手がないとご飯が食べられないから」という遺族の方の言葉を見て、日本で脳死臓器移植を実現するのはほんとに難しいなと思った。
墜落現場 遺された人たち/講談社
 上記の続編に該当するかと思う。作者が検死作業を通じて知り合った人々とのその後の交流を通じ、当事者のみならず仕事の上で関わっただけの人々にいかに航空事故が影響を与えたかをつづる。遺族の方や地元消防団、自衛隊の人たちなどに加え、葬儀屋さんや検死場所の近所のお店の人の話まで、裏方に徹して遺族を支えつづけた人、表舞台で捜索に当たった人たちの働きが目覚しい。いずれにしても事故は無いに限ると強く思ったことだった。(01.08.17)



家田荘子
極道の妻たち/文春文庫
 「選んだ男性がたまたま極道だった」女性たちの人生と生活のドキュメント。時代劇(江戸時代くらい)が現代にそのまま生きている世界だと思った。



池田由子
児童虐待/中公新書
 この本が出版されたのは1987年のこと。しかし実際に児童虐待防止法が成立したのは2000年になってからである。だが中に紹介されている数々の事例は、ここ数年新聞をにぎわせている児童虐待事件と似通ったものが多い。近年増えた、またエスカレートしていると報道されているが、虐待が発生する可能性のある環境そのものは変化していないのではないか。現場で虐待事件と戦う人々の声に政府が早く耳を傾けていれば、救済の手を得られず苦しい思いをした子供は多少なりと減ったはずである。
 法律成立当時の新聞によれば、少年犯罪と学校保健、児童福祉は全て対応省庁が異なり、一貫した取り組みが出来ない状況は変わっていないとのこと。著者は長年児童虐待に取り組んできた精神科医。国の援助が後手後手に回る中、現場で力を尽くしてきた人の提言として心に留めたい本である。(2003.5.10)



池谷浩
火山災害/中公新書
 日本は火山の国である。国内に108もの火山を抱えている以上、数十年数百年に一度の災害を覚悟しなくてはならない。近年の噴火を思いつくまま列挙して見ても、雲仙普賢岳・有珠山・三原山・三宅島などなど、数々出てくる。
 しかし景観の妙による観光資源、また温泉産業や地熱の農業・発電への利用など、火山が人々の生活に密接にかかわっていることも確かだ。この本では火山から恩恵を受けつつ、「いざ」と言う時に備えることにより火山と共存を図るべきと提言。雲仙普賢岳の江戸時代と最近の噴火に例を取り、可能な対策について検討を加えている。(2003.4.9)



石川恭三
医者の目に涙/新潮文庫
 外科医の著者が病院で出会った悲喜こもごも。お医者も人間である。



石牟礼道子
苦界浄土〜わが水俣病/講談社文庫
 感想はこちら。(00.12.20)



岩川隆
神を信ぜず/中公文庫
 BC級戦犯の逮捕と裁判、そして処刑までを綴ったノンフィクション。タイトルが重い。



上野正彦
死体検察医/角川書店
 著名な監察医である上野氏のエッセイ(?)。死体を調べることで判明するさまざまな事実。検死のくだりは、不謹慎ながら下手なミステリよりよほど面白い。(00.08.10)
死体は知っている
 監察医として長年活躍してきた著者が、その経験の中から印象に残るいくつかの事例を紹介している。また現実に取材したと思われるミステリー的な小説もあって面白い。
死体は告発する/角川文庫
 毒薬、というか人体に有害な物質全般の作用と検死の実例。(01.05.09)



上前淳一郎
洞爺丸はなぜ沈んだか/文春文庫
 感想はこちら。(94.07.29)
支店長はなぜ死んだか/文春文庫
「娘を餓死させた鬼」と報道されて自殺した男性が、「本当に報道されたとおりの人物だったか」を検証し、日本の新聞報道の抱える問題点を問う。10年以上前に書かれたものだが、松本サリン事件の河野氏などを見ると、問題点はまるで解決されていないように思える。
複合大噴火/文春文庫
 フランス革命の原因を、1783年のアイルランドでの火山噴火、ならびに浅間山大噴火に求めた意欲作。革命はパンによってもたらされた。ではパンの原料となる小麦の不作を招いたのは…?
太平洋の生還者/文春文庫
 第二次大戦中、太平洋戦線で捕虜となり、ハワイでの収容所生活を経て戦後生還した兵士たちの記録。



江川紹子
冤罪の構図/教養文庫
 タイトル通り、冤罪の発生する原因と流れを検証する。警察・検察・裁判所と、犯罪を正しく追及するための機構が各処にあるのに、庇いあい・遠慮しあい・盲信による冤罪はなくならない。裁判記録の閲覧も許可が下りない場合が多い現状では、社会的に注目されず、被疑者を助ける者のないまま刑が確定してしまった冤罪事件というのも結構ありそうな気がする。



大江健三郎
ヒロシマ・ノート/岩波新書
 ドキュメンタリー。タイトルから推して知るべし、広島の原爆被害に関する本です。
 戦後長きにわたって広島で医療に携わってきた人々との交流をとおし、傷の深さや後遺症を伝えています。原爆関連の本は枚挙にいとまなく出版されていますが、その中でも古典と言えるものであり、また個人の被爆体験のみならず、反原爆運動の様子や社会的な問題点にわかりやすく言及していることからこの本を選んでみました。
 もはや語る人も、耳を傾ける人もそれぞれ少なくなりつつあるのだと思いますが、「原爆が投下されたことによって何が起こったか」を知ることで、「原爆が投下されると何が起こるか」を悟るべきです。(95.08.16)



大熊一夫
ルポ・精神病棟/新ルポ・精神病棟/朝日文庫
 正編は約20年前、新編は10年前に書かれたもの。タイトルどおり精神科の病棟のルポである。正編は「監獄」とも呼ぶべき病院の様子を書いている。新編では病院内での暴行致死事件に端緒を発し、暴利をむさぼる病院経営者の実態を追求している。「ほんとかよ」と突っ込みを入れつつ読んだ。



大沢武男
ユダヤ人とドイツ/講談社学術文庫
 西洋の紀元から現代までのユダヤ人とドイツのかかわりについて解説。
 第二次大戦中だけではなく、キリスト教社会において差別を受けつづけてきたユダヤ人に、平等の光明が見え始めてきた時代に台頭してきたナチス。ユダヤ教徒であっても、それなりに社会に溶け込んできた彼ら―――のみならず数百年にわたりドイツに住みつづけ、自分をドイツ人と認識していた人々にまで容赦なく迫害の手は及ぶ。アーリア人種でもユダヤ教徒・もしくは祖父母にユダヤ教徒がいたならばユダヤ人というあたり、ナチスの主張も一貫性がない。海外に移住を希望する若いユダヤ人の母親に対する持ち物検査で、1933年以降に購入したものは持出禁止という規則(もちろんユダヤ人に対してだけ)に則り、おしめの洗濯用の石鹸だの生理用帯だのまで没収されているのを見て、心底あきれた。(01.06.20)



大塚公子
57人の死刑囚/角川文庫
 1995年当時、日本国内で死刑囚として服役中だった57人について記録したもの。このうち約三分の一が再審請求中、冤罪と思しき人もあり。三審制は役に立っているんだろうかと、一瞬疑わしくなった。95年から3年が過ぎ、この文庫の出版までに十数人が処刑されている。
死刑囚の最後の瞬間/角川文庫
 上坂冬子さんのBC級戦犯の未亡人の記録「遺された妻」を読み終わった日に、本屋さんに行って目についた本。死刑囚の生い立ちやその犯した罪から、実際に刑が執行されるまでの個人の記録。
死刑執行人の苦悩/角川文庫
 死刑の判決を下すのは裁判官、執行を承認するのは法務大臣だが、実際に執行を担当するのは刑務官である。この本では執行に関わったことのある刑務官たちにインタビューを行い、みずからの意志によらず「人を死なせる」立場になった苦悩を洗い出している。
その日はいつ来るか/角川文庫
 とある死刑囚の人生とその犯した罪を通じて、「償い」ということの意味を問う。一貫して死刑に反対する立場を取り続ける大塚氏の論調は、正直なところ承諾しかねるところもあるのだが、この本で取り上げられた死刑囚の犯罪に至るまでの経緯、支援する人々の姿には色々と考えさせられる点が多かった。なおこの死刑囚は2001年12月27日刑執行。殺人により罪に服したが、被害者の遺族から死刑執行の停止嘆願が出て注目を集めていた。この本の読了直後だったので、執行の報に接して胸がつまった。(01/12/24)



落合恵子
人生案内/岩波新書
 読売新聞家庭欄掲載のコラム「人生案内」から、落合さんが回答を担当した回を掲載。限られた紙面と文字数の中で、質問者に対して時に厳しく、時に寄り添うような回答には、他人様の質問に対する物ながら毎回励まされます。