クリス・コスナー・サイズモア/エレン・ピティロ
私はイヴ/ハヤカワ文庫
 多重人格障害について、アメリカで最初に広く知られた女性の自伝。治療と周囲との戦いは、本作を書き上げた後もなお続いている。



早乙女勝元
東京大空襲/岩波新書
 著者の体験した東京大空襲の記録。火と風に追われる恐怖を生々しく伝え、非戦闘員が死の瀬戸際に立たされる理不尽を訴える。(96.05.21)
東京が燃えた日/岩波ジュニア新書
 上記「東京大空襲」の小中学生向き版のような感じ。より平易だが、内容の重さはいささかも変わらない。(96.06.23)
戦争を語り継ぐ/岩波新書
 日中戦争から太平洋戦争までを生き抜いた女性たちに、庶民の戦争体験を追い続けている早乙女氏がインタビューした記録。(01.12.17)



早乙女勝元編
写真で見る東京大空襲/新潮文庫
 昭和20年3月10日の東京大空襲の記録。日本が中国で行った空襲の写真も入っている。



佐木隆三
事件百景/文春文庫
 1970年代に起こった数々の犯罪の記録から、その時代ならではの事件をピックアップし、人物と状況の背景から世相を探るドキュメンタリー。
ドキュメント狭山事件/文春文庫
 冤罪ではないかという疑惑に関してあまりにも有名な狭山事件。読んでいて学生時代に人権の授業でやったことを思い出した。この本は末尾に「熊谷事件」という事件についても載せている。殺人事件で、警察が犯人を逮捕・起訴した後に、起訴された人物の弁護士の尽力によって真犯人が見つかったというもの。要するに冤罪事件。並木の地元なので恥ずかしい。この事件を担当し、証拠の捏造やら自白強要やらをやらかした警官が、のちに狭山事件の担当もしたという。妙に納得したが…懲りなさいよ。(00.03.18)
法廷の中の隣人たち/潮出版社
 「法廷傍聴」を職業と任じている佐木氏がこれまでに出会った犯罪者や裁判官たちの記録。犯罪とは縁遠い生活を送っている大部分の人にとって、法廷や事件などは遠い世界の出来事に過ぎないだろう。しかし犯罪者も人間であり、時には隣に座ったり、向かいに越してきたりすることもある。そんな視点で法廷を見守りつつ、丁寧に取りつづけた記録から、印象的な人々をダイジェスト風にまとめた本。手軽に読めるのでお勧め。(02.12.5)



櫻井よしこ
エイズ犯罪/中公文庫
 非加熱血液製剤にエイズウイルスが混入していたことから、日本では1800人もの血友病患者がウイルスに感染した。日本テレビのニュースキャスターとして活躍していた筆者は、その背景を探ると共に、被害者たちと交流してエイズに対する偏見にも深くメスを入れている。



櫻井よしこ他
薬害エイズ「無罪判決」、どうしてですか?/中公新書ラクレ
 2001年、いわゆる帝京大ルートと厚生省ルートのエイズ裁判に判決が下った。とある薬害エイズ被害者の過失致死を問われた裁判において、結果はどちらも無罪。非加熱製剤の多用、情報の隠匿によりエイズに罹患させられた1500人の血友病患者たちとその家族を始め、多くの国民の意識と乖離した判決はどのようにして下されたのか。ジャーナリスト、医師、弁護士、刑事法学者などが、それぞれの視点から判決を解析する。(02.02.02)



オリバー・サックス
妻を帽子とまちがえた男/晶文社
 脳の神経に障害が発生し、そのために他者からは不思議な行動をとるように見える患者たち。自分の手や足、果ては全身を感覚で捕らえることのできない人、世界の右半分だけしか認識できない人、5分前の世界を完全に忘却してしまう人、体の平衡感覚を失った人、目で見たものとその形状から得られる情報を結び付けることのできない人―――と列挙すると、なんだか暗い印象を受け勝ちである。が、この本の著者のサックス氏は、できなくなってしまったことではなく、できることに目を向けられるよう、障害や病気と上手に付き合っていける手段を考える。前述の、視覚情報を脳の情報と結び付けることが困難な患者は、音楽の才能に長けていた。そこでサックス氏は彼に言う。今まで音楽はあなたの世界の一部分だったが、これからはすべてにするといい、と。何だか前向きになれる本である。



佐々淳行
東大落城/文春文庫
 昭和45年、学園紛争真っ只中で起こった東大安田講堂篭城攻防戦。機動隊側で陣頭指揮を取った佐々氏の、実体験に基づくドキュメント。舞台裏の事情があからさまになっていて興味深い。ついでに、現在一線にいる政治家・官僚の名前がちらほら散見されて面白い。(00.03.13)
連合軍あさま山荘事件/文春文庫
 昭和47年、真冬の軽井沢で起こったあさま山荘事件。連合赤軍のたてこもったあさま山荘の攻略指揮が佐々氏であった。現在本当に色々と不祥事続きの警視庁警察庁、処分をくらったお歴々がこれを読んだらなんと思うだろうか。(00.03.24)
香港領事 佐々淳行/文春文庫
 上記2冊と合わせて危機管理三部作。香港動乱時に香港領事だった佐々氏が、いかにその危難を乗り越えたかを綴る。自分のしてきたことに自信を持てること、成果を目の当たりにできることは、完了としては希有なことだろう。ある意味うらやましいお人ではある。決して立場を代わりたいとは思えないが。(2002.08.30)



澤地久枝
烙印のおんな/講談社文庫
 犯罪者の娘、愛人に貢ぎ続けながら最後には殺された女性など、社会的に烙印を押された女たちの裏面を探る。
愛が裁かれるとき/講談社文庫
 裁判までもつれこんだ離婚についての記録。夫婦で「原告」「被告」となるのが怖い。
あなたに似たひと/新潮文庫
 著名な女性11人の人生をたどる。読み終えるとタイトルが結構怖い。
続昭和史のおんな/文春文庫
 初代女性アナウンサー、小林多喜二に力を貸した女性、中国政界・文化層の著名人に嫁いで両国の架け橋となった女性など、昭和初期を生きた人々の群像。



庄野直美
ヒロシマは昔話か 原水爆の写真と記録/新潮文庫
 広島・長崎の原爆の惨禍、その30年後も続いている後遺症に悩まされる人々の姿を、生々しい写真と平易な科学資料でつづる。



白井久夫
幻の声〜NHK広島8月6日〜/岩波新書
 ある年NHKが募った原爆体験記の中に、筆者の目を見張らせる一文があった。原爆を受けて壊滅状態にあった広島、まさに市内が火の海となり人々が逃げ惑っていた時に、必死に放送を続けようとする美しい声がラジオから聞こえたというのだ。その「幻の声」の主を求め、筆者は当時の広島で放送に関わった人々を丹念に取材する。ほんのわずかの生死の境、そこで生き残った人々の苦衷が悲しい。



J.&A.スペンサー
世界の謎と不思議百科/扶桑社文庫
 世界各地で起こっている、またはかつて起こった超常現象、目撃された怪物やUFOなどの辞典。超常現象を「いまだ科学で解明できていない未知の分野」と捉え、人間の能力のすれ違いや思い込みで解明できるものはきちんと区別して証明している。



関千枝子
広島第二県女二年西組/ちくま書房
 感想はこちら。



瀬戸内寂聴(瀬戸内晴美)
美女伝/集英社文庫
 美女に生まれつくことは損か得か。この本に出てくる女性陣は、美貌を持って生まれたが為に、人に数倍する運と不運を交互に受ける運命に見舞われた。トータルで見ると理不尽な不運が勝る気がする。
一筋の道/集英社文庫
 床山、指物師、定斎屋、きせる作り、櫛作り、簾職人、刀研師などなど、日本に昔から伝わる伝統芸・伝統工芸のベテランのインタビュー集。雑誌に30年以上前に連載されていたもの。「跡継ぎがいない」「大変な仕事だから子供に継いでほしくない」などのコメントが散見されたので、ひょっとしたらもう廃れてしまった仕事もあるかもしれない。しかし各人とも自分の道に対する誇りはすばらしい。



曽野綾子
部族虐殺/新潮文庫
 テーマは一つ。「貧困」とは何か。まず食べること、生きること、それだけを目標に生きている人々。彼らを目の当たりにした曽野氏が、社会と国と人の欺まんに切り込む。個人的に論調に賛同できない個所は多々あるが、とにかく自分の責任において発言しているという気概が伺える。(2002.10.03)



孫玄齢
中国の音楽世界/岩波新書
 最近アジア系の曲を聞く機会が増えたので、少し勉強しようと思って読みました。あのだだっ広い中国の、数千年に及ぶ歴史から、日本人に馴染みの深いもの、逆に民族性・地方性の強いものをそれぞれピックアップ。独自に発明された音階、さらには楽器・曲・楽譜、歌舞や謡まで、中国の人が生み出し研究し大事に受け継いできたものの片鱗をうかがうことができます。(2001.07.27)



高山文彦
少年犯罪実名報道/文春新書
 とある少年犯罪事件において、著者は犯人の少年の実名を報道した。この本はその事件を通じての「実名報道」に対する著者の姿勢、少年法や他マスメディアの反応についてを記したドキュメンタリー。
 ただの暴露趣味ではなく、相応の信念と理論を持って実名で報道したのだと言う著者の意見は理解できたと思う。けれども私には、犯人の名を実名で報道することの意義そのものがよく理解出来ない。少年に限らず、全ての犯罪者に対し、実名報道はするべきではないと思う。影響は犯罪者当人にとどまらない。制裁する権利はマスコミにはない。
 ちなみに、被害者の実名や住まいなどを公表する理由はなおのことわからない。事実に説得力を持たせるために必要と言う人もいようが、説得力云々より当人の人権の方が勝る。もちろん当人の許可があれば話は別だが。(2003.3.23)



角田房子
閔妃暗殺/新潮文庫
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墓標なき八万の死者/中公文庫
 感想はこちら。
悲しみの島サハリン/新潮文庫
 戦中に日本から強制連行されたまま、今日までサハリンに置き去りにされている朝鮮人たちについて。40年以上を経てようやく故国に帰り着いた人々に起こっている問題にも触れている。
アマゾンの歌/中公文庫
 戦前から戦後にかけてアマゾンに入植し、開拓を行った日本人たちの記録。長い苦難と貧困を超えてアマゾンに適応してゆき、ついに主産物となった胡椒の栽培に成功するまで。
甘粕大尉/中公文庫
 関東大震災で大杉栄暗殺事件に関与し、服役の後第二次大戦中に大陸で暗躍した甘粕正彦に関するドキュメント。私はこの人物に非情な合理主義者という印象を持っていたが、この本の中の甘粕大尉はかなり不器用で一本気である。



徳永進
隔離/岩波現代文庫
 かつてらい予防法により隔離されたハンセン氏病の人々のインタビュー集。どの証言も淡々と、達観したかのような印象を受けるほど温和な語り口でつづられるが、その内容はあまりに重い。家族とも故郷とも縁を切らされ、断種という試練を経なければ結婚を許されなかった年月。特効薬が作られた後ですら、社会に戻ることは長い間許されなかった。「隔離」の2文字に込められた重みはすさまじいまでである。(2003.1.27)